牛乳を多く摂取している地域のほうが骨折が多い

同教授は「アメリカ、ニュージーランド、スウェーデン、イスラエルなどのカルシウム摂取量の多い(すなわち乳製品の摂取量の多い)国は、シンガポールやホンコンといったカルシウム摂取量の少ない(すなわち乳製品摂取量の少ない)国にくらべ、大腿骨だいたいこつ(太ももの骨)骨折がより頻繁に発生している」ことを示した。

しかも、大腿骨骨折は、乳製品が日常的に消費され、カルシウム摂取量が増えるほど、より頻繁に発生するとも述べている。この報告から7年が経過した1993年、鳥取大学医学部の山本吉蔵教授のグループは、世界各地域の大腿骨骨折の発症率を報告した(*3)

【図表4】骨粗しょう症による大腿骨骨折の年齢調整発症率(年齢35歳以上、人口10万人当たり)
骨粗しょう症による大腿骨骨折の年齢調整発症率(年齢35歳以上、人口10万人当たり)(出所=『「健康神話」を科学的に検証する』p.271)

35歳以上の人口10万人当たりの大腿骨骨折の発症率は、女性について、ロッチェスターの230人、マルモの199人、オックスフォードの202人、オスロの351人と高いが、日本は新潟の62人、鳥取の90人と低いのである。注目すべきは、日本女性の大腿骨骨折の発症率は、欧米女性の3分の1以下であることだ。牛乳・乳製品の消費量が多いということは、カルシウムや動物性タンパク質の摂取量も多いことを意味し、豊かな国であることのあかしでもある。

豊かな国ほど骨粗しょう症が多いというのは皮肉なことではあるが、このことを示す論文は、これ以外にもいくつも報告されているから、この結論の信頼性は高い(*4)。牛乳の摂取量と骨折の関係では、毎日、牛乳を大量に飲み、乳製品をたくさん食べる欧米の高カルシウム摂取民族は、その高齢者に骨折が多く、アジア諸国の低カルシウム摂取民族ではむしろ骨折が少ない、と結論できる。牛乳は骨を丈夫にし、骨粗しょう症を防ぐというのは、真っ赤なウソである。

(*3)Yamamoto K et al. Risk factors for hip fracture in elderly Japanese Women in Tottori prefecture, Japan. Osteoporosis Int. 1993 :3 Suppl 1 S48-50. PMID: 8461576
(*4)Atkinson HD et al. Osteoporotic Hip Fractures in the Elderly- A Growing Management Challenge - HDE Atkinson June 2005. The Orthopaedic World Literature Society.

1日3杯以上牛乳を飲むと、死亡率が2倍になるという研究も

【神話】
1日3杯以上の牛乳を飲むと死亡率が高くなる

前項で牛乳・乳製品の摂取量の多い欧米先進国は、牛乳・乳製品を少なく摂取するアジア諸国よりも高齢者に骨折者が多いことを述べた。それどころか、むしろ牛乳・乳製品が骨折や死亡率を高めている、という疑いさえ生じている。

【科学的検証】
ホントである。

牛乳を飲む高齢者に骨折が多発することから、今や牛乳が健康にプラスにならないことは、世界の多くの科学者の同意を得るにいたった。その上、2014年、1日3杯以上の牛乳を飲むと、骨折の予防にならないだけでなく、死亡率が2倍になることが、スウェーデンにあるウプサラ大学のカール・マイケルソン教授のグループによる研究で明らかになった(*5)

こうして牛乳の健康へのマイナスの影響が強く疑われる事態となった。しかも、マイケルソン教授は、牛乳を大量に摂取すると、酸化ストレスが増し、骨折と死亡のリスクが高まるという仮説まで提出した。この仮説には根拠がある。

(*5)Michaëlsson K et al. Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies. BMJ 2014 Oct 28; 349: g6015. PMID: 25352269