デフレと需要不足、日本企業の国際競争力の低下、地球温暖化。これらについて悲観的な論調が多い中で、なぜ私がこのような考え方をするのか。

三菱総合研究所理事長
小宮山 宏

1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。2005年、東大総長に就任。「東京大学アクションプラン」を発表して改革を推進する。09年より現職。著書は『「課題先進国」日本』『東大のこと、教えます』など多数。

それは、10年以上前につくりあげた「ビジョン2050」が原点にあるからだ。

「50年に人類の大きなターゲットを設定せよ」と唱え、専門家と議論を重ねてこれをつくった。

その中身は、「エネルギー効率を3倍」「再生可能な非化石エネルギー(原子力を含む)を2倍」「物質循環(リサイクル)システムの構築」、この三本柱で構成されている。常識と思われていた説を疑うことで「ビジョン2050」は完成したのである。

当時は石油をはじめとした化石燃料の枯渇が叫ばれ、原子力発電や太陽電池がそれに代わるという説が流布していた。しかし、私たちはそういう考え方はしなかった。というのも、この問題は、地球温暖化の問題とセットで考えなければならないことがわかっていたからである。

もうひとつ、当時は人口爆発という議論があった。一時は150億人くらいまで達して、人類は食糧や資源が不足し死滅するのではないかという極論もあったほどだ。これに対しても私たちは疑問を持っていた。

実際、その疑問は正しく、いまでは国が豊かになり人々の暮らしが安定して教育が普及すれば、出生率が落ちることは世界共通の法則として認識されている。私たち専門家のチームが議論を重ねて気づいたのは、問題の本質は人口爆発ではなく人口飽和だということであった。

そこから出てきたのが、「人工物の飽和」という概念とリサイクルだ。車も住宅も、消費量はいつかストップする。人口が一定になれば、たとえば新しく鉄鉱石を掘り出す必要はなくなる。それより、リサイクル率を高めること、そしてその際に使われるエネルギー消費量を削減させること、この2つが重要だと考えたのである。

このときも、「資源がなくなるから将来が心配だ」という感情的な悲観論を排したことがブレークスルーを起こしている。もちろん、そこに辿り着くプロセスは簡単ではない。専門家に協力を仰ぎ、データを集め、実験を繰り返した。

たとえばリサイクルに関していうと、鉄、アルミニウム、ガラス、紙パルプ、セメントなどについて、その生成プロセスからエネルギーの消費量、リサイクルの手法まで、とにかく徹底的に調べた。このように自分で生のデータに当たれば、常識の罠から抜け出すことができる。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=荻野進介 撮影=尾関裕士)
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