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図4 自動車の燃料消費

照明器具や車はどうだろうか。屋内の蛍光灯をLEDに替えるだけで、エネルギー効率が大きく改善される。ガソリン自動車はハイブリッドカーに買い替えることで、ガソリン消費量とCO2の排出量が大幅に減る。

これも根拠なく言っているのではない。自分でデータを集め、分析した結果に基づくものである。

まず、燃費効率は重量とあわせて考える必要があることを説明しておこう。図4を見てほしい。横軸に車体の重さを取り、縦軸に燃費の逆数である燃料消費量を取ったグラフである。

三菱総合研究所理事長
小宮山 宏

1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。2005年、東大総長に就任。「東京大学アクションプラン」を発表して改革を推進する。09年より現職。著書は『「課題先進国」日本』『東大のこと、教えます』など多数。

グラフ上に任意の車のデータをプロットしていくと、走行技術が同じレベルにある車であれば、原点を通る直線上にきれいに並ぶ。これは、重量が増すほど燃費が悪くなることを示している。車が一度動き出すと慣性の力が働き、タイヤと地面との間で前に進もうとするのを止まらせる「摩擦抵抗」が起きる。その値は物体の重量に比例して大きくなるため、燃費に跳ね返るのだ。

つまり、同じ重量の車同士でエネルギー効率を比較すればよいということだ。たとえば同じ1500キログラムの日本車と欧米車を比べると、日本車のエネルギー効率が20%もいいことがわかる。

車体の重量自体が軽くなることもエネルギー効率改善につながる。今後開発が進めば、重い内燃機関が不要となり、車体の重量はいまの半分くらいにまでなるだろう。

50年くらいには半分に軽くなった燃料電池車が出るとすると、一台当たりの燃料消費は10分の1から20分の1に激減する。全世界で自動車の台数がいまの5倍になったとしても、10分の1にエネルギー消費量を下げることができれば、全体の消費量はいまの半分ですむ。これを成し遂げるのが技術の役割であり、それをできるのは日本の企業しかない。

このように、データを集め、誰が見てもすぐにわかるグラフに表すことで、「新興国の人々が先進国並みに車を持ったら地球はどうなるのか」などといった悲観論にも、答えが出せるのである。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=荻野進介 撮影=尾関裕士)
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