紀元1000年頃の平均寿命は24歳だった
「少子高齢化」と言いますが、「少子」と「高齢化」は分けて考えるべきでしょう。もちろん、2つは影響し合っていますが、対策を考えるときには切り離す必要があります。
今回は後者の「高齢化」を考えてみたいと思います。高齢化の要因の1つは「長寿化」です。寿命が延びたために高齢者が増えているのです。2016年の平均寿命は、男性が80.98歳、女性が87.14歳。1985年は男性が74.78歳、女性が80.48歳ですから、31年間で男性が6.2歳、女性が6.66歳も延びています。
イギリスの経済学者、アンガス・マディソンによると、紀元1000年頃の世界の平均寿命は24歳くらいだったようです。1900年には31歳になりますが、900年でたった7歳しか増えていません。それが2015年時点では71.4歳になり、40歳も延びています。この変化は、世界平均の1人あたりGDPの延びと、見事に一致しています。産業革命のおかげで生産性が上がり、豊かになって寿命が延びたのです(図参照)。
長寿の否定は文明の否定
「高齢者が増えるのは良くない」「長寿がいけない」というなら、もう文明を辞めるしかありません。長寿の否定は文明の否定なのです。
ただ、残念ながらこうした実態の変化に、社会制度や人々のメンタリティ(心理)がまったく追い付いていません。一例が定年制度です。
定年制が日本で普及し、定着したのは戦後で、当時の一般的な定年は55歳でした。その頃の男性の平均寿命は、戦争の影響もあったでしょうが、50歳強で、55歳に達していません。定年で仕事を辞めてからの余生は非常に短かったのです。
平均寿命はその後どんどん延び、今や80歳を超えています。それなのに、多くの企業で定年は60歳や65歳ですから。寿命の延びと乖離しています。
さらに、今の高齢者は非常に元気です。国立長寿医療研究センターの調査によると、2006年の70代後半男性の歩くスピードは、1997年の60代後半男性と同じくらいです。私たちが学生時代に見ていた60歳と、今の60歳はまったく違う。おそらくみなさんも実感されていると思いますが、今の高齢者は昔の高齢者に比べて随分元気です。