これからは高齢者の活躍の場が増えていく
労働の質も変わってきていて、高齢者が働き続けることが容易になっています。
昔の工場は、人であふれていましたが、今、工場に行っても、ほとんど人の姿を見ません。人がいるのは、ラインをコントロールする「頭脳」とも言える中央制御室です。
1940年代にアメリカのマール・トラビスが発表し、日本でもフランク永井がカバーして有名になった「16トン」という曲があります。重さ16トンものトロッコをひっぱるという、石炭労働者の歌です。しかし今は、炭鉱でも機械化、自動化が進んでいて、巨大な機械が掘り、ベルトコンベヤーで運んでいく。アメリカのトランプ大統領は「石炭産業で雇用創出を」と言っていますが、現場を一度見に行ってみるといい。炭鉱も昔のようには人手を必要としません。
人手を要する労働は減っていて、知識が価値を生む社会、「知価社会」に変わりつつあります。力は機械が提供し、人は頭脳部分を担う。これからは元気で経験も豊富な高齢者の活躍の場が増えていくはずです。
理想の形は、「頭が元気なら自立できる」という状態を作ることでしょう。最近のテクノロジーの進歩を見ていると、夢物語ではないことがわかります。
15歳から64歳の「生産年齢人口」は定義がおかしい
例えば、サイバーダイン社の装着型パワードスーツ「HAL」は、脳から筋肉に対して送られる電気信号をセンサーで読み取り、モーターを動かして筋肉の動きを助けます。脳や神経などの機能や筋力が低下し、体を思うように動かせなくなった人でも、モーターの力を借りて体を動かすことができます。
視力でも技術が進歩しています。最近のイメージセンサーの性能は非常に高く、1秒間に約1000枚の画像が撮れるものもあるほどです。人間の目は、16分の1秒が限界といわれていますから、人間の目よりもよく「見えて」いる。イメージセンサーは目の網膜に当たるので、人の神経回路をつなげば、目が見えない人でも目が見えるようになります。
自立生活を支援する技術ならば、欲しいと思う人はたくさんいるでしょうし、今後も増えるはずです。労働の性質が変化し、知価社会になりつつあることに加え、こうした技術が実用化されれば、高齢者はますます長く社会参加できるようになります。
生産年齢人口の減少と高齢者の増加で大変だと言われます。しかし、生産年齢人口を15歳から64歳と定義するのは、現実に合っていません。15歳は中学3年生だし、18歳で高校を卒業してすぐ職業につく人も20%未満です。生産年齢人口を20歳から74歳とし、それに合う社会制度を作れば、高齢化が脅威などという議論の根拠のほとんどは吹っ飛んでしまいます。