費用対効果が高い

コーヒーチケットは割引のプリペイドカードで、しかも特売日を設けてさらにディスカウントして売りさばくケースもしばしば見られます。

店側からすると単価を引き下げるものですが、ある老舗の店主いわく意外やそうならないからくりがあるのだとか。「特売すると、近所の企業の社長さんとか常連さんがまとめ買いするんだよ。そういう人は知り合いに配ることが多く、もらった人は結局使わないことも多い。割引分は未使用分で大体相殺されるんだよ」。

かつての喫茶店全盛期はこんな常連も少なくなかったよう。

ずいぶん太っ腹に思えますが、中小企業の経営者にとっては飲み屋でおごるよりも安上がり。

名古屋人は倹約家の割に見栄っ張りといわれます。コーヒーチケットはそんな気質にぴったりマッチし、少ない出費でも気前のよさをアピールできる、費用対効果の高い交際ツールとしても活用されていたのです。

モーニングサービスはどこで始まったのか

名古屋の喫茶店の専売特許と思われがちなモーニングサービスですが、名古屋に先んじてサービスを始めた“元祖”と呼ばれる町が、同じ愛知県内にふたつあります。

県北部・尾張地方の一宮市、そして県東南部・三河地方の豊橋市です。両市ともに昭和30年代前半から半ばにコーヒーにおまけをつけるサービスが始まり、それが地域全域へと広まったと伝えられます。

興味深いのは、それぞれ発祥の理由が異なり、また地域の産業との関係性が理由となっていること。

常連客へのささやかな還元

一宮市は繊維の町で、特に昭和30年代はその最盛期。町のいたるところに繊維工場があり、機織りの機械が1回ガチャンと鳴るごとに1万円儲かる“ガチャマン景気”にわいていました。

名古屋鉄道 名古屋本線 名鉄一宮駅(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
名鉄一宮駅(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

商談も次々に舞い込んでいたのですが、ガチャンガチャンとやかましい工場内では会話もままなりません。そこで、先の名古屋企業と同様に、商談は近くの喫茶店で、となり、一宮では“喫茶店が町工場の応接室”になりました。

喫茶店にとって近所の繊維業者は、毎日のように同伴者とともに利用してくれる大事なお得意さん。その常連たちに少しでも還元しようと、コーヒーにピーナッツとゆで玉子をつけたのが一宮モーニングの始まりとされています。