取材相手が突然泣き出してしまったとき、プロの聞き手はどのように対応するのか。ノンフィクションライターの中村淳彦さんは「泣いている理由がわからないときには、『なぜ泣いているのか?』を聞いたほうがいい。そこで諦めてしまえば、相手の本音を聞き出すことはできない」という――。(第2回)

※本稿は、中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

問題を抱えた若い女性のシルエット
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相手が泣き始めたら必ず理由を聞くべき

悪魔の傾聴をしていると、相手が泣きだしてしまうことがたまにあります。おそらく言葉にする前に、その自分自身に起こった事象を思いだして泣いてしまった、という状況です。

突然、相手に泣かれると、聞き手には理由がわかりません。自分がなにかしたのか、自分のせいなのかと不安になります。結論からいうと、相手が泣いている理由がわからないとき、狼狽しないで「なぜ泣いているのか?」を聞きましょう。具体例を挙げます。

ある人気AV女優のインタビューのとき、彼女は突然泣きだしました。状況的に泣いてしまう要素はなく、理由がさっぱりわかりません。「どうして泣いているの?」語りは中断、沈黙となりました。しばらく様子を眺めてから、そう質問します。彼女はハンカチで何度も涙を拭いて、息を整えて再び語りだしました。

「ずっと、いい子でいないといけないって思い込んでいました。あまり、わがままとか言えなくて。『お姉ちゃんだから、しっかりしなさい』って、ずっとそう言われて育ちました。親とかまわりの期待に必死に応えようとして、地域や学校でもいいお姉ちゃんの優等生って思われていて、ずっと自分の考えを人に言うってことがなかった」

清楚せいそな雰囲気から育ちのよさは想像していました。親の過干渉や大人の期待などに縛られて育ち、大人になってから反動で爆発した、みたいなことはAV女優からよくでてくる「裸になる理由」です。彼女に反抗期はなく、ずっと親の言うまま進路を決めていました。就職先も親が決め、遊ぶことも一切しなかったようです。

社会人になって、給与だけでは自分の生活を支えられなくなったことがキッカケで水商売の仕事をはじめます。それが親の言うまま生きてきた自分を変えるキッカケになった、という話でした。