物価が上昇し続けているのに、日本人の賃金は上がっていない。生物学者の池田清彦さんは「日本人がこうした状況に甘んじているのは、『働いてお金を得ることが善、働かないことは悪』という倫理観が深く染み付いているからだ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、池田清彦『人はなぜ働かなくてもいいのか』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

東京の街の通勤者
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少子化を止めたい政治家の本音

資本主義というのは、基本的に人口が拡大するほど儲かるようにできている。労働者がより豊富に存在すれば人件費(生産コスト)は抑えられ、消費者が増えれば商品はより多く売れるので、利潤はどんどん膨らむ。

つまり、企業にとって理想的なのは、働いてくれる人が増え続けて、商品を買ってくれる人も増え続ける状態なのである。

逆に人口が減れば労働者の数も減って人件費は上昇しやすくなり、消費者も減って市場は縮小する。つまり、資本主義で儲けようとする人にとって「少子化」は深刻なリスクなのだ。

だから、政治家や経済界は「少子化は危機だ」とあおり続け、出生率の回復に躍起になる。それはすなわち、人口増を暗黙の前提として組み立てられてきた既存の資本主義システムを意地でも守ろうとしていることの表れなのだ。

「人口3000万人」はむしろいい

日本の人口は100年後には3000万〜5000万人程度にまで減少すると予測されている。3000万人規模まで減少したりすれば現在の社会インフラを維持できなくなるのではないかと心配する声もあるが、それは現在のシステムを維持しようとするせいで生じる不安である。人口が減るのであれば、それに合わせてシステムのほうを設計しなおせば別に問題はないだろう。

そもそも生態学的に見れば、少子化は必ずしも悪いことではない。

土地もエネルギーも食料も有限である以上、分け合う人数が少なければ少ないほど一人あたりの取り分は増える。個人の生活のゆとりや幸福度という意味で言えば、できるだけ人口は少ないほうがいいという考え方だってある。

3000万人という数字は江戸時代の人口規模に近い。その規模であれば、近年38%程度で推移しているカロリーベースの食料自給率も、理論上は大幅に改善する。そうすれば、海外からの大量輸入に依存しなくても国内でまかなえる水準に近づく可能性は高いのだから、生存戦略としてはむしろいいことではないかと私は思う。