連日連夜、日本中を“楽しい寝不足”にさせているサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会。その中継で名を上げたのが、無料で楽しめるインターネットテレビ局「ABEMA」だ。「移動中もスマホで楽しめる」「試合後も見られる」「全64試合視聴できるアプリがわかりやすい」と、人気が急上昇。日本代表が1次リーグの初戦で強豪のドイツに逆転勝利した日の1日の視聴者数が「1000万を超えた」とABEMAは高らかにアナウンスした。これまでW杯のような国際大会の中継は、テレビの独壇場だった。今回ABEMAがFIFAに支払った放映権料は200億円ともいわれる。“新しい未来のテレビ”を掲げるABEMAが設立した当初から藤田晋社長に取材してきたITジャーナリスト・西田宗千佳さんに舞台裏を聞いた。

FIFA フラッグ
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「一つの案件として過去最大の投資であるのは事実だとABEMAは言っていたので、FIFAに支払ったのはかなりの金額であるのは間違いないでしょう。とはいえ、200億円を大きく超えているかというと、そうでもないらしい」と、西田さんは言う。

そもそもABEMAは、W杯のような大規模な国際大会の中継はテレビ局がやるものであって、われわれのような映像配信事業者は手出しができないものだと思っていた。ところが、昨年末、ABEMAの藤田晋社長は「テレビ局がW杯の放映権料を出し渋っているという話を関係者からたまたま聞いた」と言う。

全試合配信がベストは明白

日本とカタールは時差が6時間ある。つまり、試合は夜中に行われるので、

「日本戦はともかく、他の試合を中継しても『割に合わない』。それで放映権料の支払いをめぐるテレビ局の話し合いはなかなかまとまらなかった」と西田さんは説明する。

昼間の時間帯の中継であれば、日本戦以外でもそれなりの視聴率が見込め、金額の高いCM枠も設定できる。ところが、深夜の中継では低い視聴率しか望めず、低いCM収入しか得られない。それでは高額な放映権料に対して、まったく割に合わない、というわけだ。

「藤田社長はテレビ局関係者から話を聞いて、放映権料はトータルでいくらなんですか、という話になった。それで結果的にですが、ABEMAがFIFAに放映権料を支払って、放映権を受け取り、さらにそれをテレビ局に出すことになった」