流動的な労働市場では、個人が自由にそのライフスタイルに応じて働き方を変えることが可能となり、労働者にとって大きなプラスをもたらすと考えられます。つまり、流動的な労働市場は躍動的な労働市場とも言えます。

ここで衝撃的なデータがあります。パーソル総合研究所が、日本を含めたアジア太平洋地域の人々の就業実態や仕事に対する意識などについて実施した調査結果です(図表3)。

それによると、日本で現在の勤務先で継続して働きたい人の割合は52%、また、転職意向のある人の割合は25%と、それぞれ調査対象の国・地域のなかで最低の数字となっています。労働者の約半数が今の職場で働き続けたいと思っていないのに、転職の意向を持つ人が少ないというのが日本の状況です。

こうした日本人の就業に対する意識の背景には、硬直的な労働市場があると考えられます。日本では、企業と労働者のマッチングは新卒一括採用によるところが大きく、最初のマッチングがうまくいかなかった人は、なかなか次のチャンスをつかむのが難しいというのが現実です。

また、入社後、仕事や職場が想像とは違っていたという労働者もいるでしょう。しかしながら、労働市場の流動性が高くないために、転職先を探したり、再就職のための能力開発を行うのは容易ではありません。その結果、人々は好きでもない企業にしがみつくことになってしまっています。

労働市場の流動化は労働者にとってもプラス

こうした状況を打破するためにも、労働市場の流動化は不可欠です。もっとも、日本経済の競争力を高め、生産性を上げるためだけに、流動的な労働市場が重要というわけではありません。

宮本弘曉『51のデータが明かす日本経済の構造』(PHP新書)
宮本弘曉『51のデータが明かす日本経済の構造』(PHP新書)

日本経済を取り巻く環境が大きく変わるなか、好むと好まざるとにかかわらず、日本での働き方や雇用のあり方は変わらざるをえないと考えられます。

それは、雇用は生産の派生需要だからです。生産活動があって、はじめて雇用は生み出されます。つまり、経済や社会の構造が変わり、生産活動が影響を受ければ、雇用、働き方、さらには労働市場のあり方も変わらざるをえないのです。

日本経済は、人口構造の変化、人工知能(AI)・自動化などのテクノロジーの進歩、地球温暖化対策のためのグリーン化、そしてグローバル化という4つのメガトレンドの変化に直面しています。

メガトレンドが変化するなか、個人がライフスタイルに合わせて最適なキャリアを実現するためには、働き方や雇用のあり方は柔軟でなくてはなりません。変化が多い時代には、労働者個人にとっても、労働市場の流動化は望ましいものなのです。

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