他社との差別化を図るにはどうすればよいのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「40年近く前、食品の世界でタブー視されていた“激辛”に挑戦した湖池屋のカラムーチョやネットフリックス、コロナ禍に大ヒットした口紅・KATE リップモンスターには、型破りなマーケティングのヒントが詰まっている」という――。

成功を掴むには「型破り」な戦い方が必要

前回は「ファン」(今や売り上げの9割が世界……販売台数が10分の1に落ち込んだ「チェキ」がV字回復した納得の理由)をキーワードとして取り上げたが、今回は「型破り」からマーケティングの裏側を見ていこう。

多くの企業が、ライバルにはない「価値ある違い」を作れずに、同じような商品・サービスで、結局は価格競争に明け暮れてしまう現状に頭を悩ませている。「型」通りの作り方や広め方だけではなかなか成果をあげられず、成功を掴むには「型破り」な戦い方を求められる場面が増えてきている。ただし、それは、ただ考えもなしに突拍子もないことをやればいいわけではない。

「型破り」とは、「型」を知り尽くしたうえで、狙いを持って「あえて型を破る」ことで価値を生みだすものである。ここでの「型」には、前例や常識といった言葉を当てはめることができる。業界の前例・常識、自社にとっての前例・常識、マーケティングの前例・常識、あるいは消費者にとっての前例・常識。これらをいかに良い意味で裏切る「型破り」を実現できるか、が重要になる。

マーケティングでは、良い意味で驚きを提案する要素のことを「Wowファクター」と呼ぶ。「Wow!(ワォ!)」と相手を驚くほど喜ばせる「何か」を提供できれば、相手の期待を大きく上回り、高い満足度を獲得することができる。ここからは、型を熟知したうえであえて破る「型破りな挑戦」によって、顧客の心を掴むWowファクターを実現し、成功を掴んだ3つの事例について紹介していこう。

「何でもできるメディア」ネットフリックス

ネットフリックスは、「世界中を楽しませる」を目的とした世界最大のコンテンツ・プラットフォームだ。190を超える国々で、30カ国語以上に対応したコンテンツを配信し、会員数は2億人を突破している。膨大な視聴データに基づき、コンテンツの最適な提案や製作を推進する強力なデジタルマーケティングの企業としても有名だが、コンテンツ作りの才能・ノウハウ・資金が集結する世界有数のスタジオでもある。ユーザーの期待を超え続ける「型破りなコンテンツ」を製作・配信する「何でもできるメディア」になることで、ライバルの追随を許さず独走を続けている。

Netflix
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1997年、DVDの郵送レンタルから始まったネットフリックスは、翌年に世界初となるDVDレンタル・販売サイト「Netflix.com」を開始。さらにその翌年には、定額制借り放題のサブスクリプション・サービスをいち早くスタートさせた。ドットコム・バブルの崩壊やレンタル最大手ブロックバスターとの消耗戦に苦しみながらも会員数を伸ばし、2007年にストリーミング配信サービスを導入すると、DVDから配信へビジネスを脱皮させていった。