「ファン」から見るマーケティング
前回の「物語」(「大谷翔平選手の『二刀流スパイク』を生み出したアシックスのウルトラC」)に続き、今回は「ファン」というキーワードからマーケティングの裏側について見ていこう。
ファンを増やし、ファンと強く深い関係を築いていく「ファンマーケティング」は、近年のビジネスにおける最重要課題の1つだ。ファンは、対象の商品・サービスの購入金額や購入頻度が高い「優良顧客」であることに加えて、自発的に良いクチコミを発信して新たなファンを増やしてくれる「広報係」でもあり、対象の苦境や失敗があっても許容して支える「サポーター」にもなってくれる。
ビジネスにとって、ファンを増やし、ファンから長期的に愛される存在になる重要性は、コロナ禍を経てますます高まっている。外出や人と接触するサービスの自粛が長期化したコロナ禍には、単純な景気の悪化以上に、ファンが応援して支えてくれるビジネスと、そうでないビジネスに大きな差が現れた。あらゆるビジネスで「ファンづくり」がますます重要になっていることは間違いないが、現実には、ファンマーケティングを進めていても、期待通りにファンを増やせず、思うような成果をあげられていない場合の方が多い。その大きな原因は、ファンの実態を正確に把握せず、様々なタイプが混在している「ファン」を一括りにしてしまい、有効なファンマーケティングを実行できていない点にある。
ファンになるモチベーションは3種類ある
人が、企業・ビジネス・ブランドといった対象のファンになるモチベーションは1種類ではない。強い愛着を持って長期的に支えてくれるファンには、「応援」「憧れ」「信頼」という3つのタイプが存在する。対象を応援したいと思うファン、憧れを抱くファン、そして信頼するファン。この3タイプは必ずしも切り離せるものではなく、「応援したいファン」と「憧れるファン」が混在することもある。しかし、「メインのファン層がどのタイプか」を見極め、そのタイプに適切なファンマーケティングを実行しなければ、ファンづくりは上手くいかない。信頼され、憧れられて、応援もされる存在になることは難しく、3つを欲張ると、それぞれの特徴が混ざってしまってファンマーケティングとして効果を発揮しにくくなる。
日本の多くのビジネスは、信頼タイプのファンマーケティングに偏っていて、憧れタイプを目指してもなかなか上手くいかず、そして、応援タイプを重視できていない、という傾向にある。ここからは「3種類のファン」を理解して増やすためのヒントを教えてくれる成功事例として、応援タイプの日向坂46、憧れタイプのスノーピーク、信頼タイプの富士フイルム「チェキ」について取り上げていこう。