応援タイプは長続きしづらい

この応援タイプのファンマーケティングでは、失敗を恐れずに積極的に挑戦できるようになる。失敗は、その後の挑戦と成功の「物語」の一部として有効活用できる。ファンも、応援対象のトライアル&エラーには寛容となり、失敗しても次の挑戦をまた応援してくれやすい。「応援される存在」になると、ライバルからマネされにくい、特別な存在にもなれる。その反面、トライアル&エラーを続けるということは、「最初から完璧」ではないため、憧れや信頼の対象にはなりにくい一面も持つ。また、ずっと「応援される存在」であり続けることは容易ではない。挑戦をし続けなければいけないジレンマを抱えるため、どこかで憧れや信頼タイプに移行していくことになりやすい。

挑戦・本気・物語を体現する「日向坂46」

応援タイプのファンマーケティングは、米中のベンチャー企業ではよく活用されているが、「最初から完璧」を好む日本では重視されにくい。これを例外的に活用できている事例が、未成熟なままデビューして「応援したくなるファン」を増やしながらファンと共に成長していく、日本のアイドルだ。その中でも、特に「日向坂46」は、デビューまでの3年の物語、そして東京ドーム公演実現までの3年の物語など、挑戦・本気・物語という応援タイプのファンマーケティングを体現する存在として注目できる。

日向坂46は、もともと欅坂46(現、櫻坂46)の姉妹グループのような立ち位置の「けやき坂46(ひらがなけやき)」からスタートしたアイドルグループだ。けやき坂46は、先輩グループと違い、シングルCDデビューや冠番組が決まっていない状態から歩みを始めた。当初はレッスン機会なども十分でなく、華々しく活躍する先輩グループの陰で先の見えない苦悩の日々を経験した。多くの日本のアイドルがそれぞれに苦難を経験しているが、姉妹グループの華々しい活躍と比べられながら、取り残されたかのようなけやき坂46には、「0からのスタート」というより「マイナスからのスタート」に近い特殊な困難があっただろう。

ハート型の手のシルエット
写真=iStock.com/PongsakornJun
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その苦境から、けやき坂46は「応援したくなるファン」と手を取り合うことで、道を切り拓いていった。限られた活動機会だからこそ、感謝し、準備して本気で挑戦し、トライアル&エラーを重ねながら、ライブも、ファンサービスも、バラエティ番組でも期待を超えていく。その本気で挑戦する物語に心を掴まれ、成功も失敗も、すべての挑戦を応援して支えたくなるファンを増やし、ファンと共に飛躍していった。