9月26日夜、東京・亀戸にある創業217年の老舗くず餅屋「船橋屋」の8代目、渡辺雅司社長(当時)が8月に起こした交通事故の動画がSNSで拡散されて炎上。執行役員だった神山(旧姓・佐藤)恭子さん(41)が、29日に社長に就任した。2015年の執行役員就任から約7年間、ナンバー2として事業を引っ張ってきた神山さんは、どんな思いでこの炎上に対応し、そして初の“非・創業家出身社長”に就いたのか――。
船橋屋の社長に就任した神山恭子(旧姓:佐藤恭子)さん。東京都・亀戸にある本店前で
撮影=プレジデントオンライン編集部
船橋屋の社長に就任した神山恭子(旧姓:佐藤恭子)さん。東京都・亀戸にある本店前で

「執行役員・佐藤恭子」から「社長・神山恭子」へ

「株式会社船橋屋は(中略)神山恭子(旧姓:佐藤恭子)が代表取締役に就任いたしましたので、お知らせします」

同社が新社長の就任を発表したのは9月30日。渡辺前社長の交通事故動画がSNS上で拡散され始めてから4日後のこと。極めてスピーディーな対応だった。

「2004年の入社以来、ずっと『佐藤恭子』として働いてきたので、本当はそのまま行きたい気持ちはありました。でもとにかく一刻も早く新体制に移行して信頼回復に取り組まなくてはならない。旧姓で社長に就任することも不可能ではなかったんですが、事務手続きに時間がかかることがわかり、『じゃあ戸籍名にしよう』と即決しました。船橋屋ののれんの方が大事ですから」

神山さんは、「まだ呼ばれ慣れない」という「神山」の名字が書かれた名刺を指し出しながら、こう説明する。「社内では、やっぱり『佐藤さん』と呼ばれることが圧倒的に多いです。社外の方からは今でも『どっちで呼べばいいの?』と尋ねられます。『どちらでもいいですよ』と伝えています」

9月26日深夜、前社長の事故動画が拡散し炎上

発端は8月24日。渡辺前社長が東京都千代田区内で乗用車を運転中、赤信号に気づかず直進して右折してきた車に衝突した。警察に届け出を行い相手との和解・示談は成立していたが、9月26日深夜になって、事故後に渡辺前社長が相手に怒鳴り散らしたりしている様子がツイッターなどで拡散された。

動画を見た社員から連絡を受けた神山さんは、広報担当者らとすぐに情報収集を開始。前社長にも電話で確認したところ「動画に関しては事実。本当に申し訳ない」という回答を得た。前社長個人のことではあるが、船橋屋というブランドの代表であり「顔」である人物のやったこと。「会社としても、とても容認できる行為ではありません。被害者の方はもちろん、お客さまや取引先さま、世の中の皆さまに、速やかにお詫びをしなくてはと考えました」