安倍の思想、安倍の政治スタイルは確かに「戦後」を脱却していた。そして日本が21世紀を勝ち抜くには政治も経済も社会も変わらねばならないと熱く叫び続けたが、その主張を国民に売り込むことに成功したとは言い難い。

だから、国葬で安倍に敬意を表するという岸田首相の決定には各方面から異論が噴き出した。それは意外なことではない。むしろ明日への警告と言っていい。

安倍は一貫してアジアや世界各国との関係強化に努め、21世紀の新たな脅威に立ち向かう日本の安全と繁栄を守ろうとしてきた。そういう人物の国葬に世論の強い反対があるという事実を、岸田をはじめとする日本の政治家は真摯に受け止めるべきだ。

政治家がいかに変化の必要性を痛感していようと、国民の広範な支持という民主的正統性を欠く限り、日本が国際社会で、安倍の夢見た指導的な役割を果たすことは難しい。

軍事力を強化し、アメリカだけでなく他の地域大国との絆も深め、トップダウンの強い指導力で国を守り、繁栄を維持していく。生前の安倍は、そんな自分のビジョンを国民に丁寧に説明したいと語っていた。

その思いを受け継ぐ覚悟が、今の与党政治家にあるだろうか。

(筆者は2020年、安倍元首相の伝記『The Iconoclast』を上梓した)

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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