自動車メーカーと部品メーカーの力関係が変わる日

トヨタなど大手自動車メーカーが自動車産業の頂点に立ち、1次下請け、2次下請けなどの部品メーカーに仕事を与えるピラミッド構造は、長年にわたり多くの雇用を生み、日本の経済を支えてきた。

だが、そのピラミッドは、自動車メーカーと下請けの部品メーカーとのあからさまな力関係を生み出してもいた。下請け企業は自動車メーカーから出された図面通りに部品を作り、自動車メーカーから要求されたコストを達成しないと取引はできなかった。そうした下請け企業に対し、「利益を出す余裕があるなら、その分、コストを下げろ」と自動車メーカーは要求し、自動車メーカーがコストを吸い上げる構造が常態化していった。

ガソリン車でもハイブリッド車でも開発の主導権を握り、思いのままに下請けサプライヤー企業を操ってきたトヨタは、EV開発でも主導権を手放す気はない。しかし2030年、トヨタが320GWhのバッテリー全てを社内だけで製造する可能性は低く、中国CATLや韓国LGエナジーなど外部のバッテリーメーカーに依頼すると考えられる。

その場合、トヨタは自社のEVに最適の技術仕様をバッテリーメーカーに提示して電池を作らせることとなる。トヨタの設計仕様どおりに下請けメーカーに部品を生産させるのは、これまでトヨタがやってきたケイレツ管理手法と同様だ。

トヨタ
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トヨタがバッテリーメーカーに対して優位な立場に立つのは難しい

しかし、EV用バッテリーではここで問題が起きる可能性が高い。

CATLなどの大手バッテリーメーカーは、自分たちが標準で作っている電池仕様で大量生産したいと考えるだろう。なぜなら、そのほうがコスト力もあり、品質も納期も問題なく対応できる。それはトヨタに対してだけでなく、どの自動車メーカーにでも標準の電池仕様で量産したいと考えるのは当然だ。そのため、トヨタがいままで通りのやり方でバッテリーメーカーと付き合うことになれば、ある程度の衝突が起きても不思議ではない。

このとき、もしトヨタのEV販売量が世界一なら、バッテリーメーカーはトヨタ仕様での電池生産対応を喜んで受けるに違いない。だが、2030年で年間350万台程度のEVしか作れないトヨタでは、バッテリーメーカーはそれなりの対応しかしないだろう。しかも、「コストはもっと下げろ」、納期は「ジャストインタイムでキメ細かく納品しろ」と販売台数世界一を誇ったガソリン車時代のようにうるさい注文を付けるなら、バッテリーメーカーは果たして取引に応じてくれるだろうか。

なんといっても、EV用バッテリーは引く手あまたとなっていて、電池の売り先は他にいくらでもある。かくして、自動車メーカーとバッテリーメーカーとの力関係は、かつての下請け会社との関係性のような主従関係にはなりえず、対等あるいは下剋上のような関係性になると考えられる。