※本稿は鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康をめざして』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
気づかぬうちに偏るSNSの情報
SNS上で自分と似た価値観や興味関心を持つユーザーばかりをフォローした結果、特定の信念が増幅されてしまう現象を「エコーチェンバー現象」といいます。
ツイッターにおいて自分のアカウントがどのくらいエコーチェンバーの中にいるのかを可視化できたら面白いのではないかと思い、2021年に「エコーチェンバー可視化システム」というアプリをリリースしたことがあります。
このアプリでは、ある人がどの程度エコーチェンバーの中にいるかを、タイムライン上の偏りから可視化します。もし、幅広いタイプのユーザーのツイートがタイムライン上に存在するなら、その人はエコーチェンバーの中にはいないことになります。逆に、特定のコミュニティの人のツイートばかりタイムライン上にあるようなら、エコーチェンバーの中にどっぷり浸かっていることになります。
自分で使ってみたところ、私のツイッターアカウントはエコーチェンバー度上位10%に入っており、かなり強いエコーチェンバーの中でタイムラインを眺めていることがわかりました。確かに、私は研究者やIT技術者を数多くフォローしているため、これらの投稿を見ることが圧倒的に多くなっています。もちろん興味の対象がそこにあるので、そういったユーザーとつながるのは無理もありません。また、タイムラインで関心のある話題が流れてくることにも満足していました。
ミュートやブロックで構築されていく“居心地の良さ”
本当の意味で多様であろうとするならば、例えばアイドルや鉄道のマニアックな話をツイートしているアカウントもフォローするべきなのかもしれません。しかし、あまり興味のないツイートばかり見ても楽しくないため、自分が知りたい情報をフォローするアカウントをフォローしていたようで、これによって自分と価値観がよく似た人たち、私の場合は研究者やIT技術者に囲まれるようになり、居心地の良い情報環境を構築していました。
もし自分の価値観に対して否定的な反応を送るアカウントがいたとすると、そのような情報がタイムライン上に流れる情報空間は決して心地良いものではないでしょうから、タイムラインにできるだけ現れないようにフォローを避けるでしょうし、ミュートやブロックをすることがあるかもしれません。
例えば私の場合、「大学なんて意味がない」と主張する人が何十人もいるタイムラインになったりすると、大学教員としては居心地が悪くなりそうです。結果として、「もっとこういう研究予算が欲しいね」みたいな話で盛り上がれる環境を選んでいくことで、エコーチェンバーが形成されていきます。