人間はもともと価値観の合う人と集まっていたい
しかし、このエコーチェンバーを一歩出れば、「日本学術会議はとんでもない連中だ」とか、「日本の研究者はろくでもない奴ばかりだ」と主張している人たちもそれなりに存在します。自分はエコーチェンバーの中の快適な空間にいるので、そういった意見に触れずに済んでいるわけです。網羅的に見ればそういった人たちもいるんだ、ということを時々思い出さなければ、世間と感覚がずれてしまうかもしれません。
こうしたエコーチェンバー現象は、SNS特有のものではありません。
人間はもともと価値観の合う人と集まっていたいという欲求を持っています。しかし、それを実現するのは物理的に困難でした。自分とよく似た価値観の人を歩いて探し回ろうとすると、大変な作業です。ましてや、そういった仲間とだけコミュニティを作る手段などありませんでした。しかし、デジタル社会の実現によって、検索エンジンを使えば、自分とよく似た価値観を持っている人を容易に探すことが可能です。また、ネット上では物理世界で不可能な数の人々とつながることも可能です。
問題は「分断」が加速すること
例えば100人に会って一人しかいない価値観を持った人は、リアルな社会では同じ価値観を持った人にほとんど出会えないのですが、ネット上に100万人いれば1000人の仲間を見つけることができる可能性があります。その1000人の仲間でコミュニティを作ってしまえば、簡単に居心地の良い情報環境を作り出すことができます。
これこそが、ネット社会でエコーチェンバーができやすくなった要因です。
エコーチェンバーという概念は、インターネット普及以前からありましたが、大きな社会問題として認識され始めたのは、トランプが米大統領に選出された2016年選挙です。フィルターバブルやフェイクニュースも同様に、インターネットが本来持っていたリスクとして、この時期に大きな問題と認識されるようになってきました。
では、フィルターバブルやエコーチェンバーが発生すると、何が問題なのでしょうか。その問題の一つは、社会の「分断」や「極化」が加速していくことです。
分断とは、「自分たち」と「自分たち以外」というように、世の中を分けてしまうことです。「自分たちは正しい。正しい自分たちの考えに反対するあいつらは全部間違っている」という考えが進むと、自分たちと異なる価値観を持つ人々を排除する可能性があります。