異なる価値観を持つ意見に出会うことは難しい

エコーチェンバーの中にいれば、たとえ一般的には間違っている発言をしても「そうだそうだ」という同意の反応が返ってきます。同じ考えを共有しているエコーチェンバーの中であれば「地球は平らである」と言っても、「その通りだ」と賛同してくれる人たちばかりがいるわけです。

そういった価値観を持っている人々の集団の中では、たとえ異なる意見を持っていたとしても、話を合わせるために意見を変えてしまうかもしれません。あるいは、集団内での地位を高めるためにより過激な言動をしてしまうこともあります。その結果、次第に周りの人たちと同調し、どんどん意見が一つに集約され、凝り固まっていきます。

もし「それは違う」と言う人が現れれば、異なる意見や価値観もあるなと気づく可能性がありますが、エコーチェンバー内では異なる価値観を持つ意見に出合うことが難しいため、分断が加速していってしまうのです。

情報の偏りは命も脅かす社会病理

2022年1月、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授やデジタルプラットフォーム関係者と一緒に「健全な言論プラットフォームに向けて――デジタル・ダイエット宣言 version.1.0」という共同提言を出しました。

その前文では、「フェイクニュースやインフォデミックを、人々の命も脅かす深刻な社会病理と考える」と書きました。命を脅かすという意味では新型コロナウイルスを巡るフェイクニュースが典型例です。

幸いなことに、新型コロナウイルスに関しては日本では大半の人々は冷静な対応をし、重傷者や死亡者数は低く抑えられています。日本人の情報リテラシーが高かったという面もありますが、今回はたまたまそうなっているにすぎない可能性があります。間違った情報によって適切な公衆衛生が実現できない可能性はいつでもあります。

ワクチン
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

海外では新型コロナワクチンに関する様々なフェイクニュースによって、ワクチン接種を控える人々が多く出た例もあります。また、イランではメタノールが新型コロナウイルスに効果があるという偽情報が拡散した結果、5000人以上が被害に遭い700人以上が亡くなったとも言われています。