与野党問わずみんなが涙した追悼演説

【増田】本来は、野党議員が行うのが慣例と言われていますよね。身内が自画自賛的に称えるよりも、政治的には対立関係にあった立場の人がよきライバルとして客観的に評価する方が、議会での追悼演説の意味合いも増します。

【池上】中選挙区制の時代には、同じ選挙区から出た他党の候補が追悼するのが慣例になっていたそうですが、小選挙区制になってしまったのでできなくなり、「党内から」ということになったようです。

1960年に浅沼稲次郎が現役の社会党委員長の立場にあって山口二矢に刺殺された際には、当時の池田勇人首相が追悼演説を行いました。これはものすごくよくできた演説でした。演説の一部を紹介します。

君は、また、大衆のために奉仕することをその政治的信条としておられました。文字通り東奔西走、比類なき雄弁と情熱をもって直接国民大衆に訴え続けられたのであります。

沼は演説百姓よ
よごれた服にボロカバン
きょうは本所の公会堂
あすは京都の辻の寺

これは、大正末年、日労党結成当時、浅沼君の友人がうたったものであります。委員長となってからも、この演説百姓の精神はいささかも衰えを見せませんでした。全国各地で演説を行う君の姿は、今なお、われわれの眼底に、ほうふつたるものがあります。

街頭演説を頻繁に行っていた浅沼を称える内容に、与野党問わずみんな涙した、と言われています。

安倍さんの追悼演説は誰がやるのか。野党党首で言えば、共産党の志位和夫委員長は安倍さん死去の一報を受けた直後に、かなりショックを受けた様子を見せていました。志位さんは安倍さんと当選同期ですから、追悼演説をやるという「ウルトラC」もあるか、と思いたいのですが、共産党が受けるかどうか。自民党が納得するか。岸田首相の手腕が問われています。

(構成=梶原麻衣子)
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