「弔問外交」どころか、一触即発の可能性も

【増田】岸田首相は、いち早く国葬実施を決定したことについて、世界から「葬儀に参加したい」という問い合わせが多数届いたからだ、とも説明しています。

バラク・オバマ公式ポートレート、2012年(写真=Pete Souza/Official White House Photo/Wikimedia Commons)
バラク・オバマ公式ポートレート、2012年(写真=Pete Souza/Official White House Photo/Wikimedia Commons

【池上】各国の首脳が集まるから「弔問外交ができて有意義だ」という点から国葬に賛成している人もいますが、安倍さん自身もあくまで「元首相」ですから、各国が派遣する要人のランクは常識的に考えると中国なら副首相、アメリカなら最高で副大統領となるでしょう。アメリカはオバマ元大統領が参列する方向で調整、ドイツはウルフ元大統領が参列を決めたと報じられていますが、いずれも現役の政治家、首脳ではありません。

中国は秋に共産党大会が、アメリカは11月に中間選挙が控えているので、バイデン大統領や習近平国家主席が来日するということはまずないでしょう。

そうなると「弔問外交」の効果も限定的なものにならざるを得ません。トランプ前大統領も来たがるかもしれませんが、8月9日に家宅捜索を受けるなど身辺が騒がしいので、それどころではない状況になっています。

むしろ台湾から誰が派遣されるかによっては難しい舵取りを迫られる可能性もあります。台湾の頼清徳副総統が安倍さんの葬儀に参列するために来日した際に、中国外務省が「台湾は中国の一部であり、いわゆる『副総統』は存在しない」と反発すると、林芳正外相は記者会見で副総統を「ご指摘の人物」と表現して、中国へあからさまな配慮をしました。もし蔡英文総統が来日することになれば、日本側がどういう受け入れ方をするかが注視されるでしょう。

アメリカ大統領経験者が国葬をするのは当然のワケ

【増田】アメリカは、大統領経験者に対しては国葬を行うのが通例ですね。

【池上】アメリカ大統領は国家元首ですから、日本で言えば天皇に当たります。政治的評価に限らず、国葬の対象になるのは当然でしょう。

【増田】大統領ではありませんが、2020年9月に亡くなった連邦最高裁判事(陪席判事)のルース・ギンズバーグさんの場合は、27年間にわたって判事を務めた功績もあって、棺が米連邦議会議事堂内に安置される異例の措置が取られました。公職にある女性では初めてのことで、追悼式典も行われています。これに対して、米国世論が割れたという話は聞きません。

もちろん、判決や価値観に対する賛否はあったでしょうが、ご本人が対立する意見の持ち主との交流を重んじていたことなどもあり、ギンズバーグさんに対しては「議会を挙げての追悼式典という取り計らいを受けて当然だ」という認識を多くの人が持ったのでしょう。

【池上】安倍さんの場合は、国会での追悼演説も9月に先送りされてしまいました。当初は甘利明議員が「遺族の意向」を理由に演説を行う予定でしたが、与野党から異論が出たため取りやめとなり、まだ誰が追悼演悦を行うか、決まっていません。