五輪のスポンサーは「1業種1社」が原則だったが…

【増田ユリヤ】東京五輪汚職の波紋が広がっています。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が8月17日に東京地検特捜部に逮捕されたのをはじめとして、大会スポンサーで紳士服大手「AOKIホールディングス」の青木拡憲・前会長など3人も高橋氏による贈賄容疑で逮捕。さらに出版大手「KADOKAWA」も、同じく贈賄容疑で角川歴彦元会長をはじめ3人が逮捕されました。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事会に出席する高橋治之氏=2020年3月30日
写真=AFP/時事通信フォト
東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事会に出席する高橋治之氏=2020年3月30日

【池上彰】KADOKAWAからは私も書籍を出版しているので驚きました。KADOKAWAもそうでしたが、五輪のオフィシャルスポンサーになると社員が使う名刺や紙袋に、五輪マークや大会エンブレムを使用できるようになります。新聞など報道各社も、五輪取材をするために高い代金を払ってオフィシャルスポンサーになっていました。国内スポンサー料は、ランクにもよりますが一社当たり1億円とも、最低15億円から150億円ほどともいわれており、経営の苦しい毎日新聞や産経新聞がどうやってその資金を捻出したのか、不思議なくらいです。

【増田】五輪のスポンサーというと、これまで「1業種1社」が原則でした。しかし東京大会を見ると、メディアだけでなく航空業界のANAとJALや、警備業界のセコムと綜合警備保障など、同じ業界の企業が並んでいます。

東京五輪では3700億円にも達した国内スポンサー収入

【池上】報道によれば、〈従来の「1業種1社」の原則を崩し、契約の門戸を広げた「東京方式」が奏功したが、受託収賄容疑で逮捕された大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者もこの方式を推し進めた〉(時事通信社、2022年8月18日配信)とされています。協賛を希望する企業が多かったことから、原則を覆して同じ業種の複数の企業をスポンサーとすることでより多額の資金を集められると考えたのでしょう。実際、2016年のリオ五輪では933億円だった国内スポンサー収入が、東京五輪では3700億円にも達したと言います。

【増田】確かにスポンサーになると、アスリートが出演する五輪関連のCMを流すことができます。東京五輪前も、例えばスポンサーである味の素が「アスリートの食事をサポートしています」とアピールする広告があちこちで見られました。

【池上】五輪大会の商業化が始まったのは、1984年のロサンゼルス五輪からでした。というのもモントリオールで行われた1976年の大会で、とてつもない赤字を出したことがきっかけです。大会を主催したモントリオール市は多額の借金を背負い、市民が何年にもわたって高い税金を払って赤字の補填を行いました。しかも両大会の間の1980年に行われたモスクワ五輪は西側諸国のボイコットに遭っており、文字通り五輪は最大の危機に瀕していました。