ドイツで「教会離れ」が進んでいる理由

【池上彰】日本では旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)と政界のかかわりが明らかになり、政教分離が大きな話題になっています。世界中を取材されている増田さんは、世界の宗教と政治、社会の関係性をどうご覧になっていますか。

ウクライナの子供たちのために開設された学校=2022年4月27日、ドイツ・ドレスデン
写真=dpa/時事通信フォト
ウクライナの子供たちのために開設された学校=2022年4月27日、ドイツ・ドレスデン

【増田ユリヤ】例えばドイツでは、前政権の与党は「キリスト教民主同盟」、と宗教名が政党名に入っています。しかし支持者は敬虔なキリスト教徒に限りません。「宗教に基づく価値は重んじているけれど、宗教や教義そのものと政策が合致しているわけではない」という印象です。そもそも近年のドイツでは「教会離れ」が大きな話題になっています。

【池上】ドイツ・カトリック司教協議会とドイツ福音教会が2020年に公表した年次統計によると、2019年にはカトリックが27万2771人、プロテスタントが27万人、合わせて54万人が教会の「信徒名簿」から籍を抜いたことが分かっています。

【増田】ドイツで「教会離れ」が進んでいる理由に、教会税があります。ドイツでは洗礼を受けたすべての人に、所得税の8~9%に相当する教会税の納税義務が課せられています。これを負担に思う人が増えたほか、若者の中には聖書やキリスト教の教えに疑問を感じ、無宗教になる人たちも少なくありません。

図書館や公民館などに「十字架を掲示せよ」との訴え

【増田】一方、特に地方に多いのですが、宗教規範を重んじ、教会通いが習慣づいている保守的な人たちもいます。彼らは図書館や公民館などの公共施設に十字架を掲示してほしいと政治に訴えることもあり、以前、バイエルン州の選挙を取材した際に、こうした十字架の掲示が争点の一つになっていることを知りました。バイエルン州はキリスト教社会同盟という、バイエルン州でしか活動しない政党が圧倒的支持を得ています。このキリスト教社会同盟は、メルケル前首相が所属していたキリスト教民主同盟の姉妹政党です。

【池上】キリスト教民主同盟は、バイエルン州では候補者を立てず、キリスト教社会同盟と連携しています。いわば地域政党で、思想はまったく違いますが、日本でたとえるなら「大阪維新の会」のような存在ですよね。

【増田】はい。一方で、バイエルン在住の敬虔なキリスト教徒なら、誰もがキリスト教民主同盟を支持しているかというと、そうではありません。私が取材したある酪農家は、リビングに十字架を掲げてはいましたが、支持政党はドイツの自由民主党でした。「宗教のこと以上に、今は経済や、農家の跡取り不在の問題の方が重要だ。だから経済政策に力を入れている自民党を支持している」と。都市部と地方の違いはもちろんですが、同じ地方でも、当然のことながら宗教意識や政策の優先順位は人それぞれです。