メルケル前首相が移民を大勢受け入れた根底
【増田】この選挙の取材時、バイエルン州のチェコとの国境近くにある町には、2015年のシリア難民危機の際に入国した難民のうち300人ほどが一時収容施設で暮らしていて、彼らを取材するために現地に赴いたのですが、メルケル前首相が移民を大勢受け入れた根底には、キリスト教的な考え方があったことは間違いないでしょう。
【池上】メルケル前首相の父親は牧師であり、神学者でした。メルケル前首相自身も、敬虔なキリスト教徒で、演説やスピーチで聖書の一節を引いたことも多々あります。国際政治の舞台でも「リベラル規範の担い手」と目されていましたし、2017年には当時のトランプ大統領が「イスラム圏の市民の入国を禁止する」と通達した大統領令に対し、「このような考えは、国際的に難民を支援・協力しようとする基本原則があるという私の解釈とは相いれません」と明確に批判しています。
【増田】メルケル前首相の難民政策には国内から反発もあり、反移民をスローガンに掲げた極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が勢力を伸ばしたこともありました。異文化理解、多様性の実現は目指すべき社会のあり方ですが、個別の事例を見ると難しいところもあります。
イスラム系難民の「助けられて当然だ」という態度
【増田】例えばロシアによるウクライナ侵攻では、東欧に多くのウクライナ人が脱出し、避難民として受け入れられています。まだ半年だからというのもありますが、今のところ、見た目が似ているから違和感がない、ということに加え、同じキリスト教圏からの避難民ということで、地元の人たちとの軋轢が少ないようです。
一方でイスラム圏から来る難民との間では、見た目も習俗も違うのはもちろんのこと、やはり宗教的規範が影響して、軋轢が生じる。特に受け入れ側が不満に思うのは、一部の難民が「自分たちは助けられて当然だ」という態度を取ることだ、というのです。
【池上】イスラム教の考え方では、「人に施しをすることで天国に近づく」。つまり、難民は受け入れ側に「施しの機会を与え、天国に近づけたのだから、あなたが私に感謝すべきだ」という態度を取るわけですね。もちろん、「どうもありがとう」と感謝を示す人もいますが、根底にある価値観はなかなか変わりません。