「ステート・アマ」と呼ばれる東側諸国の選手たち
【池上】フランスは2024年にパリ五輪を迎えますが、その前に特別法を作り、監査機関を新設しています。また、イギリスも2012年のロンドン大会では会計検査院や下院決算委員会が、繰り返し、支出を点検しています。
【増田】日本でもそうした姿勢や仕組み、制度が必要になるのではないでしょうか。
【池上】西側諸国では「儲かるイベント」としての五輪がもてはやされるようになった一方で、いわゆる東側、特に権威主義国では国威発揚のために使われるようになりました。五輪は本来、アマチュアスポーツの祭典なのですが、東側諸国は国家が選手やチームを丸抱えした「ステート・アマ」と呼ばれる選手たちが、まさに国を背負って出場していました。それゆえに東ドイツやソ連の選手は強いと言われていたのですが、強さの理由はそれだけではなかった。ドーピングなどの問題が、続々と明らかになったのです。
【増田】東西冷戦当時の東側では、有力な女性選手がホルモンコントロールを強要されたり、そのために妊娠・中絶させられたりした事例も指摘されていました。今年行われた北京冬季五輪でも、女子フィギュアスケートで禁止薬物が検出されたロシアの15歳の選手がいましたね。結局出場は許されましたが、「ロシアは今なお、十代半ばの若い選手に薬物を投与しているのか」と国際社会が驚愕しました。
【池上】こうした傾向は、「アスリートファースト」の風上にも置けません。
2030年の「札幌冬季五輪」を招致するべきなのか
【増田】札幌市は2030年冬季五輪の招致を目指していますが、この事件で機運はしぼんでしまうでしょうね。「誘致のためなら、何でもやる」「開催地に決まれば、スポンサーを集めるために仲介者が表に出せない金を動かしている」というイメージを払拭できない以上、歓迎ムードにはならないでしょう。
【池上】本来、オリンピックの開催地には途上国が「国際的イベントを開催できるようになった」と国際社会にアピールすることで、先進国の仲間入りをするという意味合いがありました。例えば1960年の東京五輪も、1988年のソウル五輪もそうでした。
しかし今の五輪で目立つのは、招致やスポンサー集めに代表される過剰な商業主義と、人気競技へのプロの出場や五輪種目の認定を許すことによる放映権料の高騰、さらにはドーピング問題に象徴される国威発揚や勝利至上主義といった問題ばかりです。大会運営側やメディアは「アスリートファーストだ」と口では言いますが、実態はそうなっていません。五輪は「平和とスポーツの祭典」という原点に立ち返ることができるか、大きな岐路に立たされています。