【編集部註】稲盛和夫氏の逝去を受けて、過去の掲載記事を再配信します。本稿は、雑誌「プレジデント」(2014年7月14日号)の掲載記事を再編集したものです。肩書きなどは原則として掲載当時の内容となります。

「その人のことを好きになりなよ」

業種や時代を問わず、経営に必要なのは、「出会い」と「気づき」です。大きな何かを見逃していた過去の自分が、あるときそれに出会い、「そうなんだ!」「もうちょっと早く学べればよかった」と気づくわけです。

俺の株式会社 坂本 孝社長
俺の株式会社 坂本 孝社長(撮影=永井 浩)

人は誰でも「俺が、俺が」になりがち。人より余計にお金が欲しいし、いい服を着ていい車に乗りたい。だけど、社長業には「周りの人を第一に考えなきゃいけない」という鉄則があります。そこに気付いて、「ああ、そうだよな。運命共同体の社員も自分と一緒に満足して幸せにならなきゃいけない」と思えるかどうかが肝要なんです。

僕が「稲盛フィロソフィ」に出会ったのはブックオフ創業後ですから、50歳を過ぎていました。しかし30代で入塾した塾生たちは、「稲盛フィロソフィ」や塾長の言葉を僕よりも知っています。盛和塾でそれについて書いてみろと言えば、原稿用紙で100枚くらいサラサラ書ける塾生もいます。ところが、その多くは現場の経営に反映させることができていません。

時々、若い塾生に「経営者として何をすればいいのか?」と聞かれると、稲盛塾長は「社長として惚れさせてみさせんか」と。社員に「この社長のためだったら命をかけてもいいと言わせてみろ」ということです。実は、肝心なことってこれだけなんですよ。

では、そのために何をどうするか。もちろん、社内のコミュニケーションが大切ですが、部下から聞くだけ聞いておいて、結局は自分の考えを押し付ける経営者は多いし、相手に猜疑心を持っていたら、絶対にコミュニケーションなど取れません。

実は、やり方は簡単。稲盛さんいわく「その人のことを好きになりなよ」。

「いやぁ、前から酒、飲みたかったんだよ。乾杯!」。カチン。これでいいんです。「おまえのこと大好きだよ」という表情で「俺も刺し身は好きだから。マグロ、食うかい? この店の、美味いんだよ」って。相手のことを好きになるだけで、コミュニケーションというのはガーンと変わります。