家計に応用できる簡単コスト削減

京セラ社内の金銭感覚を代表する例として「当座買い」という考えがある。いわゆる、必要なときに必要なものだけを買うということだ。まとめて買えば安くなるから、買っておいたほうが得だという考え方は一切ない。一切ないというより、禁じられていると言ったほうがいい。まとめて安いときに買っておくというのは、一見頭のいいようなやり方に見えるが、実際は仕様が変わって使えなくなったり、たくさんあるとたくさん使ってしまう。これは家庭でも同様で、たくさん買い溜めしておくと、不必要に使ってしまうことがある。なくなった分だけ、ちょっと手間でもスーパーに買い物に行くということを繰り返したほうが結果的には経済的なのである。

京セラ社長 山口悟郎氏

こうした金銭感覚を京セラの社員たちはどのように身につけるのか。私の場合は、営業から学んだ。例えば、営業で自分たちがコントロールできるものといえば、変動費の中で、接待費、交通費などの経費関係になる。京セラでは部内で責任者を決めて、あるグループを任せられると、その中で「君は、徹底的に電話代を削減しなさい」「あなたは運送費、荷造り運賃を徹底的に削減しなさい」というふうに担当を決めていく。担当者はデータを取って、どうしたら安くなるのかを徹底的に研究する。そうした工夫を新入社員のころからずっとやっているのだ。

営業所の責任者になったときも同様だ。営業所ごとにいろんな工夫をする。例えば、文房具といった備品も普通の値段では買わない。要するに市販価格では買わないということだ。10人くらいの営業所の規模でも、鉛筆1本買うにも文房具卸の社長のところまで行って、「ここに営業所をつくって、定期的に買うから、安くしてほしい」と交渉する。ガソリン代も同様だ。そこで思い出すことがある。当時、外資系企業から転職してきた優秀なエリート社員がいたのだが、京セラを大企業だと思って入ったら、営業所長自ら値切り倒すのを見て、「こりゃ大変だ」とすぐに辞めてしまった(笑)。京セラは確かに大企業だが、実際は事業体ごとの中小企業の集合体で、それぞれは零細企業と言ったほうがいい。だからこそ、安く買うことを一生懸命に繰り返しているのだ。