高齢の親を介護する家族は、さまざまな悩みを抱えている。社会福祉士でNPO法人「となりのかいご」代表の川内潤さんは「親に『介護認定を受けたくない』『施設には絶対に入りたくない』と言われて困っている家族は少なくない。そうした親に対しては、直接的に施設に入ることを勧めるのではなく、別のアプローチが必要だ」という――。(第3回)
※本稿は、川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
どうしても病院に行きたがらない親たち
親が病院に行きたがらない。介護認定を受けてくれない。デイサービスに行ってくれない。
「なんとか説得して、連れて行ってくれないでしょうか」と包括の職員やケアマネジャーに頼ってくる家族が多いのですが、私は親に病院や介護サービスを無理強いするのはいかがなものかと思います。
そもそも、「どう説得しようか」と子どもが親に言うことを聞かせようとしている時点でおかしなこと。冷静に考えれば、介護される本人が過ごしたいように過ごすことが、いちばんの支援なはずですよね。それなのに本人の思いはそっちのけで、子どもが、やれ、「今日はここに行け」「明日はこれをしろ」「朝は早く起きろ」などと口うるさく言えば、親が不機嫌になるのも当然です。
たとえば、長年、黙々とろくろを回して生きてきたような芸術家肌の親が、デイサービスで、皆と一緒になって歌を歌いたがるでしょうか。定年まではなんとか会社勤務をやり過ごしたけれど、元来、人づきあいが苦手。定年でやっとそこから解放されたと思っている親が、通所リハビリに行くでしょうか。
こういう方は訪問介護のほうが本人のためかもしれませんよね。ちなみに、私が認知症の方のデイサービスで働いていたときには、こんなケースがありました。認知症の母親が、いくら誘ってもデイサービスに行こうとしないのだ、と。
「私はそんな柄じゃないの」「今から知らない人ばかりのところへは行きたくない」と繰り返すばかり。認知症を患ってからいろいろなことが不安になって、人との関わりをいっさい持とうとしないのだと、娘さんから相談を受けました。