介護される側の“意外な本音”

以前、認知症に関するワークショップを開いたことがあります。

そのとき、「親が認知症になったら、どういうサポートをしますか」と質問すると、返ってきた答えの多くは、「外出させないようにする」「老人ホームに入ってもらえるよう説得する」「同居を検討する」でした。

ところが、「自分が39歳で認知症になってしまったとしたら、どうケアしてほしいですか」と聞くと、「失敗を指摘しないでほしい」「今まで通り接してほしい」だったんです。これは、介護する側、される側の立場の違いで、思いがすれ違っていることの証しなのではないでしょうか。

親に介護サービスを使ってほしいと思ったとき、施設に入居してほしいと思ったとき、親の意思を無視して、自分の思いや都合を押し付けていないかを、子どもは冷静になって考えてみる必要があります。

親をその気にさせる“とっておきの方法”

「そろそろ親に介護が必要かもしれないと思ったら、介護認定を受けてもらいましょう」

そんなふうに書かれている介護の本をよく見かけます。介護認定を受けてもらって、要支援1や2などの認定が下りたら、介護サービスを利用することができるのですが、そもそも認定を受けるのを嫌がる親も多くいます。

そういう親をその気にさせるには、どうしたらいいでしょうか。

実は、とっておきの方法があります。それは、家族が説得しないこと。そして、何もしないで、本人が困るまで「待つ」ことです。本人が認定を受けたくないと言うのは、デイサービスもホームヘルパーも、今は必要だと感じていないからです。それなら、本人が必要だと思うまで待ったらいいのではないでしょうか。

本当に困れば本人から言ってくるでしょうから、先回りせず、ゆっくり、のんびり、期待しないで待ちましょう。それまでは、「介護認定を受けると、こんなサービスがあるみたいだよ」と、情報発信に徹していればいいと思います。

こんなケースがよくあります。認知症の傾向が出はじめた1人暮らしの母親から、娘のところに「不安で不安でしょうがない」「話を聞いてほしい」と毎日のように電話がかかってきます。

でも、娘が「そんなに寂しいなら、デイサービスに行ったら?」と言っても、「お金がもったいない」「今からそんな新しいことはしたくない」と、なんだかんだと理由をつけて、なかなか行こうとしません。どういうことかと言うと、お母さんは、ただ自分の不安を伝えたいだけなんです。

車いすに乗るシニア
写真=iStock.com/seven
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