泥棒を捕らえてから縄をなえ
こうした工夫の積み重ねが京セラのアメーバ経営に繋がっていくのだが、その象徴的な社内の合言葉が、「時間当たり採算」だ。いわゆる1時間当たりいくらの付加価値を生んだのかという経営指標である。基本的な目標は、売り上げと利益率を一緒に伸ばす。これが重要だ。
もし経費を削減すれば、一時的に高い利益率になるが、売り上げを伸ばさなければ、いくら利益率を維持できても、評価されない。利益率が同じでも、売り上げが伸びていなければダメだ。こうした状態は社内で非常に問題視される。
京セラでは、目標に対して100%達成するということをかなり厳しく言う。それも月次で毎月の目標を達成しなければならない。それを12回やれば、1年間の計画を達成できる。だから、一つひとつの目標をきちんと達成するということを稲盛も非常に厳しく言っている。かなりしんどいように見えるが、必ず2ケタ以上のかなり高めの目標をつくって、社員全員がチャレンジしている。今日の結果は目標値に対してどれだけプラスなのか、マイナスなのか。2日目はどうなのか。それを30日間見て、結果的に1カ月やれたかどうか。さらに来月はどうなるのかを確認していく。もちろん外部環境も無視できないが、円高や洪水といったアクシデントを理由にしたら、社内ではコテンパンにやられてしまう。
工場を建てたり、お金をたくさん使うときもかなり慎重だ。稲盛がよく言うのは「泥棒を捕らえて縄をなう」という言葉だ。つまり、泥棒を捕まえてから縛るための縄をつくるということ。一般的には後手に回るというネガティブな意味だが、京セラは「泥棒を捕らえて縄をなう」式だ。さきほどの「当座買い」も同様だが、工場をつくるときに「1年目にこういう注文がきます。2年目の注文は1.5倍になるだろうから、これだけの設備とスペースを用意しましょう」と言うと、必ず「ダメ」と言われる。要は予測通りにならないということ。まず1年目なら1年目の設備だけきちんと用意して、確実に注文がくる分だけの金額を投資するのだ。
需要について右肩上がりのプランをつくることは非常にダメなことだと、しつこく言われる。私も若いころはよく言われたものだ。もちろん一般的には機会損失に繋がると思われるだろうが、私たちは機会損失しないように、非常に細かく繰り返し労を厭わずプランを練る。お金を決済するときは、そこを一番重視する。
このようなアメーバ経営の考え方は、京セラフィロソフィと対になっている。売り上げを最大にして経費を最小にする。そうやって利益を出して払うべき税金を払い、社会に還元する。その結果、社員たちも幸せになれるのだ。
1956年、京都府生まれ。78年同志社大学工学部卒業、同社入社。2002年半導体部品国内営業部長、03年執行役員、04年半導体部品統括営業部長、09年執行役員常務、取締役を経て、13年4月より現職。京セラは、59年に稲盛氏が設立。