値引きをしない努力、安くつくる努力

営業出身の私にとって、重要な仕事だったのが価格交渉だ。例えば、こちらは90円で注文を取るより、91円で取れば1円多く利益は残るが、相手は安くしてほしいから当然認めない。だからこそ、価格交渉は難しい。他社が90円、京セラが92円だとしたら、当然、取引先は「2円引いて90円にしたら買う」。あるいは「89円なら買う」と言ってくる。

だが、その値引きに応じてしまえばそれで終わりだ。製品の機能も品質も変わらないとき、残るのは営業力しかない。自分たちと付き合えばどれだけ得をするのか、トラブル対応を含めて、値段だけの交渉にしないことだ。営業は社内の工場とお客様の両方を説得しなくてはならない。お客様の言いなりでは工場は動かないし、工場の言いなりではお客様は注文をくれない。

その調整は誠心誠意の姿勢でしかできない。そこにテクニックは存在しない。やはりフェース・トゥ・フェースで、工場の人ともお客様とも一杯飲んで仲良くなって本音で話し合うことだ。

そうやって営業で鍛えられると、どういう価格で売るべきかがよくわかってくる。そのために、どんなコストダウンをしなければならないかも自然と見えるようになる。例えば、資材を安く買うというコスト対策もあるが、それには限界がある。だから、私たちは、その製造のプロセスを工夫する。例えば、茶碗を1つつくるとき、同じ材質で茶碗をつくるにしても、どうやってつくるのかは、見た目にはわからないが、つくり方は日々変えられる。そこから安くつくれる方法を探していくのだ。いわば、安くつくるためのプロセスを開発するのである。