雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第3位の『生き方』。解説者は京セラの山口悟郎会長――。

迷ったときに見上げる「北極星」

稲盛和夫は私にとって、例えるならば北極星のような人です。

社会に出るまでは誰しも身近な人間を行動の規範としていますが、京セラに入社して以降は、稲盛が私の師となり規範となったのだと思います。

稲盛のスタンスは、いかなるときでも変わりません。北極星は動かないからこそ旅人の道しるべとなります。それと同様、迷ったときには稲盛ならどうするか、と考えることが私の人生の指針になっていると感じています。

稲盛の語ることは1度聞いて理解するというものではなく、人生の折々で「こういうことだったのか」と腑に落ちるようなものだと感じています。

若いころよりも、結婚して子どもができたり、親が老いたり、孫ができたり、あるいは社長となったり、年を取った今だからこそ、理解できたなと感じる瞬間があるのです。

私が稲盛とはじめて顔を合わせたのは、就職活動の際の面接でした。当時はそこまでの有名人ではなく、知る人ぞ知る業界の雄、といった存在でしたが、「この人があの稲盛さんか」と思いました。

若い時分には直接の関わりはほとんどありませんでしたが、現場によく来る人だなと思っていました。

当時私が在籍していた東京営業所には社員が30~40人しかいませんでした。しかし、稲盛はひと月かふた月に1度は顔を出して、オフィスの中央に5、6人の幹部を集めて話していました。

忙しい人で、自身は出前の丼をかきこみながら、細かい指示を飛ばしていたのを覚えています。寝食を惜しんで働いていたのでしょう。厳しい人だな、という印象でした。

仕事での関係ができたのは随分と後、私が幹部会議に出るようになってからです。すでに京セラ自体は安定していて、本社の主力事業にはあまり口を出す必要がないと考えていたようです。新規事業や業績のよくない部署を気にかけているようすでした。

私は40代後半で、執行役員になりましたが、半導体関連の安定した部署にいたので、直接指示を受けたり叱られたりした記憶はあまりありません。ただ、大きな理念を語るだけではなく、部分にまで目を向けた細かい指摘をしている姿が印象に残っています。