なぜ、従業員の墓を京セラは設けるのか

社員に対しては、稲盛が仏門に入った際に修行をした京都の圓福寺に「京セラ従業員の墓」があります。これは稲盛の「従業員は家族」という思想によるものです。

今までわれわれが幸せになってくるまでの間に亡くなった方々のためだけではなく、都市化が進み、核家族が増え続ける中、墓を持っていない従業員のためにもなり、苦楽をともにした仲間が一緒に入れる場としてつくられました。

また、稲盛は本の中で、感謝の心を忘れてはいけないということも説いています。人生には悪いことも良いこともありますが、困難に直面した際にも生かされていることに感謝し、良いことがあった際にはそれを当たり前だと思うのではなく素直に喜んで感謝する。成長できる機会にも、幸運に恵まれたときにも、常に感謝の気持ちを忘れないということです。それが、謙虚にコツコツ努めることとも繋がってくるのではないでしょうか。

稲盛は批判を恐れず、自分が正しいと思ったことを行う人です。常に人間として正しいことを行い、ごまかしや責任逃れは絶対にしてはならない。

昨今、不祥事があった際に代表して会見を行う者が過ちを認めないということが見受けられます。

本の中で稲盛も書いていますが、何か悪いことをしたのであれば責任者としてきちんと説明責任を果たし、謝らなければいけません。

このように、『生き方』には、幅広い年代、万人に通じる思想がわかりやすく書かれています。特に、これから社会へ出てゆく若い人たちにこの本を読んでほしいと思います。1度読んで手元に置いておけば、後々立ち返ることができます。この本が、人生の節々で、どう生きるかという「哲学」になるのではないでしょうか。

▼名経営者・稲盛和夫の「生き方」
●1932年:鹿児島市に生まれる
●1945年:13歳、肺浸潤で病床にふせっているときに、『生命の実相』を枕元で読む
●1951年:鹿児島大学工学部応用化学科に入学する
●1955年:教授の紹介で松風工業に入社
●1956年:日本で初めてフォルステライトの合成に成功
●1958年:上司と衝突し、松風工業を退社
●1959年:27歳で京都セラミックを創業
●1966年:IBMよりIC用サブストレート基板を大量に受注した。34歳で社長に就任(現在は名誉会長)
●1969年:米国に現地法人京セラインターナショナル(KII)を設立
●1975年:松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、モービル・オイル、タイコ・ラボラトリーズと合弁でジャパン・ソーラー・エナジーを設立し、太陽電池の開発を開始
●1982年:前年に買収したサイバネット工業など4社を合併し、社名を京セラとする。
●1984年:翌年の通信事業の自由化に向け、電気通信事業に参入。第二電電企画を設立。翌年に商号を第二電電(DDI)に変更
●1985年:科学や文明の発展、また人類の精神的深化・高揚に著しく貢献した方々の功績を讃える京都賞を設立し、第1回授賞式を挙行
●2000年:DDI、国際電信電話(KDD)、日本移動通信(IDO)が合併し、KDDI発足KDDIの名誉会長に就任(現在は最高顧問)
●2010年:倒産した日本航空立て直しのため会長に就任(現在は名誉会長)
●2012年:日本航空が再上場を果たす

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

山口悟郎(やまぐち・ごろう)
京セラ会長
京都府出身。1978年同志社大学工学部卒業後、京都セラミック(現京セラ)入社。京セラの主力事業の半導体部品の営業に長く関わってきた。2009年執行役員常務、取締役、13年代表取締役社長を経て17年から現職。趣味はスキーと読書。
(構成=梁 観児 撮影=的野弘路、市来朋久 写真=AFLO)
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