雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第4位の『坂の上の雲』。解説者はローソンの竹増貞信社長――。

登場人物が持つ当事者意識に魅了

三菱商事に入って、畜産部に配属されたものの、3年目に牛肉輸入自由化に伴う過当競争のあおりを受けて大赤字を計上。私は在庫処理のために食肉販売会社へ出向となり、そうした時期に『坂の上の雲』を読みました。

ローソン代表取締役社長 竹増貞信氏

100%納得のいく配属先というのは珍しいのかもしれません。しかし会社勤めの身ならば、辞令は絶対です。同期が海外に転勤になったことを聞いたときなどは、自分の境遇と比べて落ち込む気持ちがあったのも事実です。

そんななかで『坂の上の雲』を読み進むうちに、明治の激動期を生きた青年たちの熱い生きざまに心を揺さぶられました。日本という極東の小さな国が、清国やロシアという大国を相手に戦争に踏み切る。そして、軍人、経済人、政治家だけでなく、市井の人々までが、「日本の勝利」に向けて文字通り一丸となっていきます。

彼らの行動力や結果を出す力に心を揺さぶられた私は、自らの「使命」を再認識し、全国のスーパーに片っ端から売り込みの電話をかけまくりました。話がまとまると食肉売り場の一角に自前のホットプレートを持ち込み、エプロン姿で焼き肉の実演販売をしたこともあります。

やがて三菱商事に戻り、初めての海外駐在は米国にある食肉加工の関連会社でした。インディアナ州という片田舎で、日本向けベーコンなどを扱いました。そして帰国後、広報部勤務の辞令を受け、2010年には経営企画部社長業務秘書に任命されました。「自分は営業マンだ」という自負があった私には、予想外の異動が続きました。

けれども秘書の4年間、小林健社長(現会長)に付き添って働くうちに、会社組織がどのようなメカニズムで動くのか、自分の目で確かめられました。いま振り返ってみると、どの部署の仕事も貴重な経験であり、経営者としての私の血となり肉となっています。

結局、どんなときどんな場所であっても、それぞれが与えられた使命に一心不乱に取り組むことが大事です。そのことを教えてくれる『坂の上の雲』は、まさに必読書といえ、総合部門で第4位に入ったのも当然の気がします。