Q.得意先へ謝罪したものの、相手は激怒している。どう話すのが正解か。
[A]「……」(沈黙を続ける)
[B]「実は、経理の手違いがありまして」
[C]「注文をください」(さらに相手が激怒)

無理に話そうとすると無理が生じる

社長就任まで営業畑を歩んできた私ですが、実は人と話すのがあまり好きではありません。「男は喋るな」と言われて育った世代なので、饒舌な男はリスペクトできない、という感覚がもともとあるんです。黙り続けているのは全然苦になりません。

京セラ社長 山口悟郎氏

ビジネスとして必要な会話は苦労しながらするようになりましたが、いまでも基本的に世間話をするようなことは苦手ですね。もちろん、挨拶は大切だし、会話も必要です。でも、喋れば喋るほど、どんどん薄っぺらくなると思うので、相手との心理的な距離を縮めたいと思ったときも、必要最低限のことしか話さず、むしろ相手の話をよく聞くことを心がけるようにしています。

初対面の人で遠慮があっても、お互い、ビジネスで会っているのだし、相手にも言いたいことはある。だから、それをうまく聞く。聞くのが75%、話すのは25%といったところではないでしょうか。

実は、聞くというのは、相手の立場に立つことなんですね。何かしてほしいことがあるのか、あるいは何か苦情や不平があるのか。それを聞いて対処するというスタンスをとると、相手との距離はぐっと近づくのではないかと思います。口下手だから、あるいは逆に、たくさん喋るから、ということと、人と人の距離感や、人間同士の信頼感は、比例しないものなんですよ。

だから、口下手で話すのが苦手なので営業の仕事ができないと思っている若い人がいるなら、あまり気にすることはないと伝えたいですね。逆に、喋らない人のほうが信頼を得るということもある。もちろん、本当に言うべきことは言わなければなりませんが、世間話ができないとか、雑談の話題が見つけられないといったことは気にしなくていい。仕事にかかわることをしっかり話すことさえできれば、無理に話題を見つけようとしなくたって、こちらが黙っていたって、相手が切り出してくれるものです。