ときどき、会話の中で“間(ま)”があきますね。私は、自分からまくし立てるようなことが苦手ですし、黙っているのも平気ですから、間を恐れないと決めているんです。なぜ、そういうポリシーを持つようになったかというと、若いころにいくつも失敗したからです。間を詰めようとして焦って、言わなくていいことを言ってしまう。揚げ足を取られるようなことを口走ってしまう。結局、後悔することになります。間があいて沈黙が支配しても、あまり焦って無理に言葉を発さなくてもいいのではないかと、20代後半のころから思うようになりました。

営業時代にお客さまとよく話になるのは品質や納期に関する技術的なことでした。いろいろな問題が起こって、お客さまに謝りに行く場合もあります。先方は怒っているし、こちらは説明責任を果たさなければならないので、どうしても多弁になるんですよ。先方が黙り込むと、間が怖いものだから、何か言わなければと焦って、どんどん喋ってしまう。話せば話すほど、ボロが出るようになる。気がついたら、言ってはいけないことを口走っていたりします。

ビジネスというのは、自分自身を、そして自分の会社をよく理解してもらったうえで、商品を売ったり買ったりすることなのではないでしょうか。だから、間があいても、そのほうがよく理解してもらえるなら、変に取り繕って口を滑らせるよりも、沈黙したまま相手の言葉を待ったほうがいい。

もちろん、相手の質問には答えなくてはいけません。説明が必要であればしなくてはならない。ただし、間があくと、相手の気持ちを推し量ろうとするあまり、「もっと説明を聞きたいのかな」と余計な先回りをしてしまうことがある。でも、実は、こちらが最初にした説明を単に相手がまだよく理解できていないだけであるというような場合もあります。次の質問がくるまで待てばいいのに、間に耐えられず、ついつい、言わなくてもいいことまで言ってしまう。話の辻褄が合わないようなことにもなってしまいます。

目上の偉い人とお話ししていても、会話が途切れたら途切れたままにしておく。沈黙が続いたとしても、ちょっとの間、ほんの数十秒くらいなんですよ。だから焦ることはない。相手から「ところで……」と言葉が出てきますから。我慢しなければだめなんです。