中国企業バイトダンス(字節跳動)がショート動画アプリTikTokの米事業について、オラクル・ウォルマートと技術提携すると発表した。2017年にサービスを始めたTikTokのグローバルのユーザーは約6億9000万人。米国では2019年10月に4000万人弱だったのが、直近では1億人を超えた。トランプ大統領はTikTokが集めた個人情報が中国政府に渡るリスクがあるとして、米事業の禁止か売却を求めたが、今回の動きは急成長する中国企業を力技で排除するという政治的な側面が強い。

ティクトクのアプリ画面
写真=iStock.com/Anatoliy Sizov
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バイトダンスを2012年に20代で創業し、8年間で950億元(約1兆5000億円、中国シンクタンク調べ)の個人資産を築いた張一鳴CEOは、メディアへの露出を好まず、「秘密主義」「ドライ」と評されている。一方、起業前に京セラと第二電電(現KDDI)を創業者であり、経営破綻に陥ったJALを再生させた稲盛和夫氏の著書を読み、その価値観に共感したことが明らかになっている。

通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の任正非CEO、EC大手アリババのジャック・マー前会長など稲盛氏に心酔する中国の大物経営者は少なくないが、同氏のフィロソフィは30代、40代のテック起業家にも引き継がれているのだ。

「成功はコピーできるのか」の問いの答えた稲盛氏

TikTokの売却先はマイクロソフトが最初に名乗りを上げ、オラクルが後に参戦した。オラクルは企業向けITサービスを主事業とし、SNSとのシナジーが薄いため、今回の交渉でも本命とみられていたのはマイクロソフトだった。そして張CEOは2019年、中国メディアの取材に対し、大学卒業後、短期間ではあるがマイクロソフトで働いていたことを明かしている。

「マイクロソフトに何も悪いところはなかった。ただ、少し退屈だった。難しいチャレンジはなく、自分の力も小さかったから、当時は仕事と同じくらい、読書に時間をかけていた。あの時期に本当に多くの本を読んだ」

読書家の彼は、稲盛和夫氏の著書『生き方』(中国語タイトル:活法)も読んでいた。「成功はコピーできるのか」と、同郷の先輩に質問し、京セラとKDDIの2社を成功させた稲盛氏の著書を勧められたそうだ。

名門大学でITを学び、テック企業を渡り歩いた張CEOは、「(稲盛氏の考え方は)観念的すぎる」と思いながら読み進めていたが、「仕事に励むことは修行」という文章に行き当たり、共感を覚えたという。

張CEOは「本質を見る」ことの重要性をたびたび口にしてきた張CEOは2019年3月の会社設立7周年の講演で、「ベストではない環境にあっても、根本的な解決を図るという気持ちを持ち続けなければならない。私は常に、“根本的に解決したか、表面をなぞっているだけではないか”と自分に問いかけている」と語っている。

張CEOの人物評は「冷静沈着」「穏やか」というものが多い。自信や野心に満ちた多くの中国人起業家とは風采が異なり、常に「本質」と「心の在り方」を見極めようとする姿勢は、確かに稲盛氏と通じるものがある。

張CEOはトランプ大統領がTikTokの事業禁止を命じる直前の8月初旬に、従業員にメールを送り、「ユーザー、従業員、企業の成長を最優先して判断する」「世間は騒がしいが、最善の解決策を追求している自分たちを信じてほしい」と理解を求めた。

米政府には事業の売却か禁止を迫られ、中国政府には技術の輸出を禁じられるという八方ふさがりの状況で、張CEOは「オラクル・ウォルマートとの技術提携」という、米中両政府が受け入れやすい着地点を探し当てた。彼にとっては従業員の雇用も考えた「本質的な解決策」と言えるのかもしれない。