「TSMCを守るため」とも考えられるが…

まず経済力について考える。台湾の経済規模はG20諸国並みで、欧州のスイスやベルギー、スウェーデン、ポーランドなどと肩を並べる。アメリカの9位の貿易相手国でもあり、決して無視できない規模だ。しかし、言うまでもなく中国はその台湾の20倍を超える圧倒的な経済規模を誇っており、アメリカにとっては最大の貿易相手国だ。台湾とは比較にならない。このため「台湾経済」は問題の本質とはならない。

では、世界を左右する「あの技術」、つまり台湾が誇る「世界最高の半導体技術」はどうか。

周知の通り、台湾には世界最高水準の半導体の製造をほぼ一手に引き受けるTSMC(台湾積体電路製造)の拠点がある。仮に中国が台湾を支配すれば、この最先端の半導体技術が中国の手に落ちることになり、世界の半導体市場は大混乱に陥る可能性もある。最先端兵器から家電製品まで現代のあらゆる工業製品の性能は半導体に依存している以上、当然、アメリカはそうした事態を許さないだろう。

しかし、台湾の半導体技術もまた問題の本質ではない。宇宙開発からバイオテクノロジーまで、世界最多といってもいいほど多くの科学技術分野でイノベーションを起こしてきたのがアメリカだ。半導体という一分野での技術的な問題はいずれ乗り越えられると考えている可能性が高い。

長らく支配してきた“縄張り”が侵されている

またバイデン政権は将来を見据えてTSMCの米本土への誘致を積極的に進め、8月には半導体産業に巨額の助成金を出す法案を成立させてもいる。確かに現在のTSMCの技術力は圧倒的で、他の企業の追随をまったく許さないレベルだが、アメリカにとっては台湾問題の本質ではないと考えられる。

もちろん、経済力も半導体技術もアメリカが台湾を守る大きな実利的な要因ではある。ただそれよりも、さらに大きく本質的な要因が2つある。

一つ目は、「自分たちが支配している太平洋を中国に渡さない」というアメリカの意思だ。台湾は現在、日本列島やフィリピンと並んで中国海軍が太平洋に出て行く上での地理的に大きな障害となっている。台湾が中国の手に落ちれば、中国は太平洋進出に大きな足がかりを得ることができるのだ。それは、第2次大戦後、半世紀以上にわたって太平洋を支配してきたアメリカの“縄張り”へと出て行くことを意味する。アメリカとしては、当然そんな事態は許容できない。