アメリカの要人が次々に台湾を訪問
ナンシー・ペロシ下院議長に続き、複数のアメリカの議員が台湾を訪問した。いずれの訪問も、アメリカは「台湾を軍事的にも経済的にも支援する」というメッセージだ。このため「台湾は自国領土の一部」と主張する中国は強く反発し、台湾島を飛び越えるミサイルを発射し、台湾を“海上封鎖”するかのような大規模な軍事演習を実施して、台湾軍とアメリカ軍を威嚇した。
アメリカ軍の最高司令官であるバイデン大統領としては、最大の脅威である中国人民解放軍との緊張が高まることは迷惑この上ない。あくまで米中関係は大統領である自分が管理すべき問題だ。このためホワイトハウス高官は訪問を止めようとしたが、結局、議会の重鎮で大統領よりも年上である82歳のペロシ議長を止めることは誰もできなかった。
今回の議長らの訪問は、いたずらに中国との軍事的な緊張を高めたと非難する声が一部で出た。しかし議長も議員たちもそんな声はまったく気にしていない。中国の猛烈な反発を引き起こすことなど十分承知の上で訪問したのである。
議員たちの訪問は11月の中間選挙を前にした政治的なパフォーマンスだったという側面はあるだろう。ペロシ議長を含む訪台した6人の議員のうち5人が、党として中間選挙で苦戦が予想される民主党の議員である。しかし、今回のアメリカの動きを、単なる選挙対策や、高齢の重鎮政治家の「レガシー作り」などと矮小化して考えるべきではない。
なぜか。アメリカは台湾を守ることに本気でこだわり始めているからだ。
「曖昧戦略」をなぜ転換したのか
特に、ロシアによるウクライナ侵攻を見たアメリカは、現在、中国による台湾侵攻をより発生確率が高い現実的な脅威として捉え直している。今回はペロシ議長の訪台を嫌がったバイデン大統領ですらも、“アメリカは台湾を防衛する”という趣旨の発言を何度も繰り返し中国を怒らせている。
もちろん、アメリカには台湾を守る法的義務はない。台湾関係法によって武器などを供与するだけだ。そして台湾を軍事的に防衛するかどうかは、つねに「曖昧」にしておくのがアメリカ政府の基本方針でもある。バイデン大統領がこうした従来方針から逸脱した発言をするたびに、ホワイトハウスは、「アメリカの戦略は何も変わっていない」と火消しに動いている。それにもかかわらず、バイデン大統領はあえて、台湾を守るという趣旨の発言を繰り返してきた。
なぜアメリカは台湾にこだわるのか。台湾の経済力だろうか。やはり世界にとって最も重要な「あの技術」が理由なのだろうか。