※本稿は、豊島晋作『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
その弱さは世界の軍事関係者に衝撃をもたらした
ロシア軍によるウクライナ侵攻は、世界の軍事関係者に2つの衝撃をもたらした。一つは言うまでもなく、ロシアが本当に軍事侵攻に踏み切ったという事実そのもの。そしてもう一つは、ロシア軍のあまりの弱さだった。
侵攻当初、ウクライナの首都キーウは1週間程度で陥落すると見られていた。ところが攻防は続き、ロシア軍の苦戦ばかりが報じられた。結局、早々に戦略全体を見直す必要に迫られ、主戦場をキーウから東部ドンバス地域に移すことを余儀なくされたのである。
なぜ、そこまで弱かったのか。まずは苦戦の状況を確認しておこう。
ロシア陸軍は、BTG(Battalion Tactical Group)というユニット単位で行動している。複数の機動部隊で編制された組織で、日本語で言えば「大隊戦術群」だ。その兵員数は700~800人。最大で900人の組織もある。
その中で、先陣を切るのが戦車10両からなる戦車中隊。その後に30両以上の戦闘車両、自走砲、ロケット砲、対空攻撃能力を持つ車両、歩兵部隊などが続く。これが、地上作戦における単位として機能している。
ロシアのタス通信によれば、2021年時点で、ロシア軍は合計で約170のBTGを保有している。そして、このうち約六割を超える約110をウクライナに展開させたと見られている。つまり今回、ロシア陸軍は保有する3分の2弱もの戦力を投入したわけだ。総兵力では約19万人と言われている。
作戦としては大失敗と言わざるを得ない
キーウ攻防戦での敗北などもあり、早くも4月上旬の時点で、29のBTGが大きな損害を受け、作戦行動ができない状態に陥っていたようだ。これは欧州当局者の分析による推定だが、侵攻からわずか2カ月弱で全部隊の4分の1以上を失い目立った戦果を挙げられなかったとすれば、作戦としては大失敗と言わざるを得ない。
どこかで誤算があったのか、そもそもBTGを利用した戦略が失敗だったのか、ロシア軍としては、作戦の立て直しを迫られることになった。
ロシア軍制服組のトップであるワレリー・ゲラシモフ参謀総長は、優秀な軍人で戦略家としても知られるが、BTGの要である戦車部隊の出身でもある。今回、BTGがうまく機能しなかったとすれば、その状況をどう総括したのか。それはウクライナ侵攻の行方とともに、ロシア軍全体の戦略や再編制にも影響を及ぼすだろう。
ともかく苦戦は続き、全戦力の大部分をウクライナとその周辺や欧州正面に展開せざるを得なくなった。大量の戦力を隣国に投入した結果、総延長2万キロを超え、世界最多の18カ国と接する国境の守りは薄くなっている。