軍事力は「世界第2位」と言われていたが…

ロシア軍はなぜここまで弱かったのか。開戦当初、ロシア軍は部隊間の連携に手間取り、武器や弾薬そして食料を供給する兵站へいたんは機能せず、キーウ攻防戦では次第にウクライナ軍に撃退されていった。ハルキウ(ハリコフ)周辺でもなりふり構わぬ砲撃戦を展開したが、結局は撃退された。最終的にロシア軍は戦略全体の見直しを余儀なくされ、いったん首都および北部攻略は断念して東部ドンバス地域と南部に戦力を集中させている。

各国の軍事力を総合的に分析しているGlobal Firepowerのランキングによると、ロシア軍の軍事力は、世界第2位と言われていた。一位の米軍には劣るが、EU各国や台頭する中国・インドより上と認識されていたのだ。もちろん、ウクライナ軍を圧倒的に凌駕りょうがしていた。

軍隊
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ところが今回の侵攻を見るかぎり、とてもそのレベルの軍隊の行動とは思えないのである。

いったいロシア軍の中で何が起きていたのか。戦時下で収集されたかぎられた情報(意図的に流された虚偽情報が含まれる可能性もある)をもとに、分析を試みたい。

1.戦術レベルの指揮系統が連携していない

大前提として、ウクライナ軍の果敢な抵抗があることは間違いない。自分たちの国家・国土を絶対に守るという士気の高さに加え、NATO諸国が供与した対戦車ミサイルなどが初戦では有効に機能したことがわかっている。

ただそれにしても、ロシア軍の損害は大きい。ここまでロシア軍が弱かった理由の一つとして考えられるのは、まず、戦術レベルの指揮系統の連携不足だ。

NATO側の軍事専門家は、12から20のBTGからなる作戦行動グループについて、開戦当初はロシア陸軍司令部が指揮を執っていた可能性を指摘している。そして最初の電撃戦の段階で、この陸軍司令部と現場部隊との間に、中間的な司令部が置かれた形跡はないようだ。

このため、前線からはるか後方にいる司令部が、非常に多くの大部隊を“遠隔操作”していた可能性があるという。その結果、効率的な部隊運用ができず、現場から上がってくる情報も適切に処理されず、作戦の混乱を招いたという見立てだ。時間の経過とともに、この問題は改善はされていったようだが、ロシア軍の指揮系統の混乱、部隊間の連携不足のひどさが初戦での敗退につながったと考えられる。