「アフガン侵攻の10年間」に匹敵する損害

日米と向き合う東部軍管区の兵力までもがウクライナに展開した結果、東部地域の戦力も弱まり、ロシア空軍は中国軍に日本の周辺空域を一緒に飛ぶよう要請し、虚勢を張らざるを得ない状態と見られる。極東ロシア軍は、日本の安全保障上の脅威ではあるが、足元でその力はやや低下している。

ロシア軍は多数の死者を出していたこともわかっている。西側の国防当局者の分析では、開戦からわずか3週間の時点で、2000~6000人の兵士が亡くなっていた可能性がある。通常の戦闘の場合、負傷者や捕虜は死者の3~4倍いると推計されるので、それを当てはめれば、少なくとも1万人近くが戦闘不能に陥った可能性がある。

この数字は、おそらくウクライナ兵の犠牲よりも大きい。侵攻から間もなくシリアなどで傭兵ようへいを募集していたのも、こうした軍の激しい消耗を少しでも穴埋めするためだった。

また、開戦後1カ月の時点で、ロシア軍の死者は7000~1万5000人にも達したというNATO側の分析もある。どこまで正確かはさておき、仮に最大の1万5000人とすれば、79年末に旧ソ連が行ったアフガン侵攻時の兵士の死者数に匹敵する。ただアフガン侵攻の場合は、89年に撤退を完了するまでの10年間の数字だ。その数を1カ月で失っているとすれば、いかにロシア軍の受けた損害が大きいかがわかるだろう。

最大の敵「NATO軍」との戦いどころではない

必然的に、兵器の損害も大きくなった。アメリカ国防総省は、5月末時点でロシア陸軍は1000両の戦車、350門を超える大砲、30~40機の戦闘機、50機のヘリコプターなどを失ったと分析している。

一方、ウクライナの被害状況はどうか。ロシア軍の発表によると、4月16日の時点で2万3000人以上のウクライナ兵を殺害したとしている。ただし、ほぼ同時期にウクライナのゼレンスキー大統領は、兵士の死者数について2500~3000人と述べている。およそ10倍近い開きがあるわけで、どちらが正しいか、嘘をついているか、一概に判断することは難しい。実際は、両者が発表する数字の間にあるのかもしれない。

ただ、東部ドンバス地域での激しい戦いが始まった5月に入ると、ゼレンスキー大統領は1日に50~100人の兵士が死亡していると述べている。そして6月初めには100~200人とも述べている。実際より少なく発表している可能性もあるが、仮に200人だとすれば、負傷などで戦闘不能に陥った兵士が600人程度に上り、わずか2~3日間で1000人を大きく超える兵力を失っていたことになる。

このようにウクライナ側の損害も大きいと見られるわけだが、いずれにせよロシア軍も最大の敵として想定していたNATO軍との戦いを前に、大きな打撃を受けた。