香港の二の舞は何としても避けたい

これまでアメリカは長らく海洋国家として、中国は大陸国家として歩んできた。しかし、台湾を支配した中国は、海洋国家へのシフトをより鮮明にするだろう。つまりアメリカと中国の対立は「海洋国家」対「大陸国家」という図式ではなく、将来的には「海洋国家」対「海洋国家」の対決となる可能生がある。当然、太平洋をめぐる争いは激しくなるだろう。

また軍事的な意味では、台湾北東部には、中国からアメリカ本土へ太平洋を越えて飛来するミサイルを探知できると見られるレーダー施設がある。これはアメリカの国家安全保障上、重要な施設とみられており、これが中国の手に落ちることも看過できないだろう。

では二つ目の理由は何か。これこそがアメリカが台湾にこだわる最も根源的な理由である。

それは台湾の政治体制が、「自分たちと同じ」であることだ。つまりアメリカと同じ自由民主主義の国だということである。

2019年以降、アメリカは中国への返還によって香港の自由と民主主義が死に絶える様子を目の当たりにしている。つまり民主主義が権威主義に敗れ去るのをまざまざと見せつけられたのだ。そして仮に中国が台湾を支配すれば、台湾の民主主義制度を葬り去るのは火を見るより明らかだ。アメリカとしては、これこそが絶対に受け入れられない事態なのである。

市内を走る台北MRT
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アジア・アフリカで進む「アメリカ離れ」への焦り

今のアメリカは、自らのアイデンティティーの核ともいえる自由民主主義が、最大のライバル国家に叩き潰されるのを黙って見ていることはできないという、焦燥感にも似た意志を持っている。

では、なぜアメリカは焦燥感を感じているのか。

ソ連との冷戦に勝利したアメリカは、民主主義と市場経済こそが国家の経済発展をもたらすと世界に訴えてきた。しかし、権威主義国家である中国が爆発的な経済成長を遂げる中で、その主張は必ずしも正しくないことが露呈してしまった。

また冷戦後、完全な民主主義とはとてもいえないアフリカ諸国、アジア諸国の経済力が増大するにつれ、自らが率いる西側民主主義陣営の相対的な力は低下していった。アメリカもサウジアラビアなどの権威主義国家とは実利に基づいた関係を持っているが、本当に信用できる同盟国は欧州各国と、アジアでは日本ぐらいしかいないのが現実だ。