アメリカ版「鉄の女」の訪問で台湾が揺れている
8月2日深夜11時過ぎ、台北にある5つ星ホテル、グランドハイアットの前は、アメリカ下院議会のペロシ議長の訪台を歓迎する市民と、これに抗議する市民とで騒然となった。
現地に住む知人によれば、双方がプラカードを掲げてシュプレヒコールを上げ、翌日未明にかけて騒然となったという。
ペロシ議長は、大統領や副大統領が執務不能になった場合、アメリカ合衆国大統領に就任する地位(アメリカでNo.3)にある。民主党きっての対中強硬派で、1991年には、2年前に起きた天安門事件の現場を訪れ、最近では今年2月の北京冬季五輪で、人権問題を理由に外交ボイコットを主導した人物として知られる。
そんな彼女が台湾を訪問した背景は2つある。
1つは、アジア外交に赴く中で、安全保障の面から台湾を外せなかったこと。そして経済安全保障の面からも、半導体生産で世界一を誇る台湾を欠かすことはできなかったことだ。
さらに言えば、82歳を迎えたペロシ議長にとって、11月の中間選挙以降も議長に留まる可能性は決して高くなく、言うなれば、アジア歴訪に台湾を組み込むことで自らの花道を飾りたいという思いもあったろう。
「台湾と世界の民主主義を守るというアメリカの決意は揺らぐことはない」
トランプ政権時代、トランプ大統領が行った一般教書演説を、ぶぜんとした表情で聞き、演説の原稿を破り捨てたアメリカ版「鉄の女」は、蔡英文総統との会談でこのように語った際、最高の気分だったのではないだろうか。
「偉業」をかき消されたバイデン大統領
習近平総書記からすれば、メンツがつぶされた形だ。7月28日、バイデン大統領との電話会談で「火遊びをすれば必ず焼け死ぬ」と釘を刺したにもかかわらず、訪台を許した。これでは面目丸つぶれである。
バイデン大統領にとっても痛い出来事で、アルカイダの指導者、ザワヒリ容疑者殺害という「偉業」がかき消されてしまった。中間選挙を前に、アフガニスタンからの撤退で「弱腰」と批判された過去を一気に挽回する機運が、ペロシ議長の訪台で上書きされたわけだ。
ついでに言えば、アジア歴訪の最後の訪問国、日本としても、当初は、参議院選挙後の臨時国会にペロシ議長を招き、安倍元総理に対する弔辞を聞いてもらう案が、弔辞先送りで崩れ、台湾問題だけに世界の目が注がれることになってしまった。
それだけペロシ議長の訪台はインパクトがある出来事で、中国は、指導部の強い意志と強力な海軍力を見せつけるため、台湾本島を6つの海域から取り囲み、軍事的な威嚇体制に入った。
アメリカも、空母「ロナルド・レーガン」をはじめ横須賀の第7艦隊を差し向けたため、1995年の第3次台湾海峡危機(台湾・李登輝総統の訪米に反発した中国がミサイル等を発射した出来事)に近い緊張は当面続くとみられる。