QUADの足並みを乱すインドのロシア対応

ただ、QUADも盤石とは言えない。対中国では思惑が一致しているものの、ウクライナに侵攻したロシアをめぐって足並みの乱れが続いてきたからである。その張本人がインドなのだ。

インドは、隣国の中国とは緊張関係にあるものの、ロシアとは伝統的に友好関係を築いてきた。インドが所有する兵器の6割から7割はロシア製であり、中国との有事の際、最も頼れるのはロシアの兵器との認識が今でも強い。

ロシアも、インドに対し、高機密の原子力潜水艦貸与や、巡航ミサイルの共同開発などに応じ、インドの防衛力強化にひと役買ってきた経緯がある。

実際、インドは、国連の安全保障理事会や国連総会の緊急特別会合でロシア軍の即時撤退を求める決議案の採決や、国連人権理事会でロシアの理事国としての資格を停止する決議案の採決など、少なくとも10回以上棄権している。

ロシアのウクライナに侵攻について、インドは一貫して直接的には非難しておらず、ロシアに経済制裁を科すG7や、ウクライナへの軍事支援を強化するNATO加盟国とは一線を画してきた。

そればかりか、日本をはじめ欧米諸国がロシアからの原油や天然ガスの禁輸へと舵を切る中、インドは原油の輸入を続けている。

インドの原油輸入に占めるロシアの割合は1%あまりに過ぎないが、対ロシア制裁に関してはインドが抜け穴になっている、と言わざるをえない。

中国への牽制にはなるが、危うさも残っている

そのようなインドに関して筆者の目に留まったのは、5月19日付の産経新聞、インドのバルマ駐日大使へのインタビュー記事であった。大使の発言要旨は以下のとおりである。

○覇権主義的な動きには反対
○QUADは軍事同盟ではなく様々な問題を協議する場
○台湾有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが大切
○ロシア制裁に関してインドは独立した立場を取っている

日本やアメリカの立場とは、少し異なることがわかるはずだ。

インドは、中国の覇権主義的な動きにも反対だが、アメリカがインド太平洋地域でプレゼンスを強くすることも快く思っていない。QUADでは技術協力に関する期待からQUADに参加している部分もある。台湾有事に関しても、インド軍を派遣してまで台湾を救う気概は感じられない。

近頃は、中国海軍がロシア軍とともに日本の近海を航行し、軍事演習を行うケースも増えている。大嫌いな中国と仲良しのロシアが対欧米で連携を強化した場合、インドはどう動くのか、危うさもがあることも忘れてはいけない。