インドを巻き込み、同盟国以上の集団に
国際的な枠組みと言えば、「アメリカが提唱したもの」と思われちだが、QUADは、安倍元首相が第1次政権時代の2007年8月、インド国会で演説した際に提唱したものだ。
インドの国会で、というのがポイントで、安倍元首相は、同盟国のアメリカや友好国のオーストラリアだけでなく、インドを巻き込むことで中国をけん制しようとしたのである。
第2次安倍政権時代、自衛隊のトップ、統合幕僚長を務めた河野克俊は「QUADで評価できるのは、インドを入れたことです。インドを仲間に引き入れたことで、インド洋と太平洋をつないだ。これは中国にとっては大きなけん制になります」と話す。
また、アメリカの現代政治・外交が専門の上智大学総合グローバル学部、前嶋和弘教授も筆者の問いに次のように語る。
「インドが加わったことで、同盟国以上の集団になりました。これを受けてアメリカ国務省にはインド太平洋局という部署が設けられましたし、大きな意味を持つものになったと思います」
インドも「中国に対抗する」意識を共有している
その鍵はインドである。インドはQUAD4か国の中で唯一、中国と地続きで接している。その距離は実に約3500キロに及ぶ。(ロシアへの脅威からNATOに加盟したフィンランドでも、ロシアと接している国境の長さは約1300キロ)
そのため、緊張関係が続き、2020年には国境が画定していない地域でインド軍と中国軍が衝突し、双方に死傷者が出る事態も起きている。
「中国に対抗する」という意識は、インドも他の3か国と同じである。事実、5月24日、東京で開催されたQUAD首脳会合では、来日したモディ首相が、「QUADの信頼と決意は民主主義に新たな強さをもたらしている」と語り、率先して連携強化を求めた。
このとき、アメリカのバイデン大統領はこのようにモディ首相を持ち上げている。
「モディ首相による民主主義の実現に向けた努力に感謝したい」
「私は米国とインドのパートナーシップを地球上で最も緊密なものの1つにしていきたい」
これらの発言は、日本だけでなくアメリカも「インドをつなぎ留めておきたい」と考えている何よりの証左である。
このように、安倍元首相の提唱によるQUADは、アメリカでも、オバマ⇒トランプ⇒バイデンと3代の大統領に受け継がれ重要視されている。それは、中国の習近平指導部による覇権主義が、年々色濃くなっていることの裏返しでもあるが、同時に、中国の動きを見据えた安倍元首相の功績と言うこともできるだろう。