お互いの“牽制”がどんどんエスカレートしている
かつてアメリカにとって、中国の台湾侵攻の「意図」と「能力」が不透明な状況であれば、議員の訪問などで、いたずらに中国を刺激することは得策ではなかった。中国国内の強硬派が台湾に強い態度に出る口実を与え、危機を醸成するリスクがあったからだ。同時に現状維持を主張する中国国内の穏健派を窮地に追いやってしまうことにもなった。
しかし中国に「意図」と「能力」が両方あるのであれば、アメリカとしてはもはや、中国への政治的かつ軍事的な「抑止」に動くしかない。バイデン政権としては当面は中国との緊張緩和に動くだろうが、いずれ軍事的な「抑止」をかつてないレベルで強化する方針へと転換するだろう。
一方の中国はどう動くか。もちろん現状維持を主張する“穏健派”が共産党内部で勢力を拡大してくれることが一番望ましい。しかし中国がこれだけ軍事的な「能力」を高めている以上、そうした穏健派の意図に期待するのは楽観にすぎるだろう。詳しくは、このほど上梓した『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』(KADOKAWA)でも解説しているので、興味のある方はぜひお手に取っていただきたい。
緊張状態の間、日本は十分に備えられるか
この8月、共産党の最高幹部と長老らが集まる「北戴河会議」で習近平主席が政策をめぐって党内から大きな批判を浴び、守勢に回っているとの情報も伝わっているが、これで習主席が目指す台湾統一は遠のくだろうか。あるいはゼロコロナ政策などの経済失策を挽回すべく、万が一にも彼が数年後に台湾侵攻という“政治的ギャンブル”に打って出る最悪シナリオへとつながってしまうだろうか。
当面、異なる世界観を掲げる米中は緊張と緩和の政治プロセスを繰り返していくだろう。それでも今後5年から10年は、常に火種を孕んだかつてない緊張状態が続くことになる。
その緊迫した月日の間に、日本は十分な備えを持つことができるだろうか。