日本が侵攻されても米軍は守ってくれない

そして、この現代のペロポネソス戦争の発火点となり得る台湾のすぐ近くに位置するのが私たちの住む日本だ。中国による台湾への軍事侵攻、つまり台湾戦争は、おそらく戦後の日本が直面する最大の危機になるだろう。

仮に中国が台湾に軍事侵攻する場合、航空戦力と海軍戦力によって周辺海空域を封鎖すると見られている。そうなれば、台湾からわずか110キロほどしか離れていない与那国島や、尖閣諸島は中国海軍によって制圧される可能性が出てくるのだ。台湾有事が日本有事といわれるゆえんである。

そうなれば日米安全保障条約が発動され、アメリカ軍が動くと思いたくなる。しかし、現実はそう単純ではない。アメリカ軍にとっては約1万キロの太平洋を移動して大部隊を展開する大規模作戦であり、あくまで台湾の防衛が最優先である以上、日本の離島奪還がどの程度まで重要視されるかは不透明だ。

このため、与那国島などの離島奪還作戦は自衛隊単独の作戦となる可能性が出てくる。戦争は不確実性の集合体であり、事前の想定がどこまで通用するかは誰にも分からないのだ。

もちろん、自衛隊の軍事行動は米軍との共同作戦の中で実行されるだろう。ただ、いずれにせよ日本は中国との戦争に突入することになる。これはおそらく、戦後の日本が下す最大の政治決断となるだろう。

2014年の太平洋配備時に撮影されたUSS駆逐艦と沿海域戦闘艦
写真=iStock.com/Benny Winslow
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「意図」と「能力」を揃えたかつてない状況にある

台湾戦争の発生に伴って日本が直面するリスクのパターンは膨大であり、天文学的な数になると考えられる。日本にとって戦争を避けることが最重要課題だ。もちろんアメリカも中国も共に戦争を避けたいのは同じだ。しかし、21世紀の「新たな現実」がそれを許さないかもしれない。

それは中国が史上初めて、台湾を軍事的に侵攻する「意図」と「能力」を同時に持つことになる、という現実だ。

今のところ、中国人民解放軍は台湾を完全制圧できるだけの十分な能力を持っていないとされる。上陸作戦のための大部隊を台湾海峡を越えて輸送する十分な手段がない、といった理由がよく挙げられる。

しかし、2022年は7%超という国防費の大幅増額を決めた中国人民解放軍は、いずれそうした能力を獲得する可能性が高い。多くの民間船舶も動員するだろう。そして習近平指導部が台湾統一の意志を繰り返し表明している以上、将来的に中国は台湾侵攻の「意図」と「能力」をそろえることになるのだ。国際政治学では特に「能力」を重視するが、この両方が揃うことは極めて危険であり、アメリカが不安になる最大の理由がまさにここにある。