世界的航空リサーチ会社「OAG」の2022年データによると、世界でLCCシェアが一番高い東南アジアでは54%を占め、西欧州で45%、北米で32%という数字が出ている。世界平均では32%となり、何れも日本を含む北東アジアの9%のマーケットシェアよりも高い数字だ。北東アジアは世界を10地区に分けたデータの最下位にあたる。世界の中では日本はまだまだLCCの伸びる余地がある。

日本のLCCの誕生は諸外国に比べて40年以上遅れたが、述べてきたように日本では、諸外国のようにカリスマ経営者の下で運営される独立系エアラインが十分に育たなかった。MCCの挫折を乗り越え、LCCは正真正銘の価格破壊を実現し、成長につなげてきた。大手の傘下の下で安定した経営を続けていけるのであれば、それは日本の産業にとって好ましい構図だと筆者は考えている。

「時代遅れの航空規制」はもう必要ない

大手傘下でLCCが成長すると、諸外国ではカニバリズム(いあい)が生じる。大手の利用客を安い運賃でLCCが奪い取ることからそう言われたものだが、大手の経営を脅かすまでに至っていない。むしろ目を向けるべきは新たな需要として「安いのであれば乗る」旅客がいたという事実である。

就航開始後10年はLCCにとってスタートダッシュに成功した。就航20周年に向けて、このまま成長を継続できるかどうかは、たゆまぬ経営努力が必要なのは言うまでもない。

それが実証されるのは収益化だ。本稿最後にLCC8年分の決算数値を見ていこう。

LCC2社の営業収入・純利益(2015年以降)

これによると、LCC2社で継続して純利益が出たのはピーチで2018年までの4期、ジェットスターで2019年までの4期である。コロナ禍で純利益が減少している現在、早期経営安定化は待ったなしだ。この点は前出の路線の話とともにピーチは大赤字と報じたプレジデントオンラインの拙稿(2022年4月3日付)をご覧いただきたい。

エアラインにとっても利用者にとっても課題が残るのは、世界の航空業界に乗り遅れた日本の航空政策にあると言える。

日本の航空政策はいつも外国の後手に回る。羽田空港をLCCに開放するオープンスカイ(航空協定で決める規制を撤廃すること)が遅れていること。韓国仁川空港は24時間運用のできる空港だが、成田空港には24時(B滑走路は23時)から翌朝6時まで夜間就航規制となるカーフューが残されていること。空の公租公課で着陸料がいまだ諸外国より高いこと――。

羽田空港の着陸料はボーイング787-8クラスで59万4000円と仁川空港の3.5倍にもなるなど諸外国よりも高い規制のハードルがLCCの足かせになっている。

これらが一掃されれば、成長は一段と進む。LCCだけでなく、日本の航空業界にとって有益なことは間違いない。安くて快適な空の旅を、多くの人が楽しめるようになるためにも、日本の空で公正な競争が進むことを願ってやまない。

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