「中国からすべてがみえる」

今年6月には、米ニュースサイト「バズフィード」による報道が世間の注目を集めた。

記事によると、同サイトは中国ByteDance社内の会議を記録した音声ファイル80点を入手し、中国の技術者が実際にアメリカ人ユーザーのデータを閲覧していたことを突き止めたという。また、同社の信頼・安全チームのメンバーは、「中国からすべてがみえる」と発言していた模様だ。ほか、ある責任者は、北京には「マスター・エンジニア」と呼ばれる技術者がおり、「すべてにアクセスできる」状態になっていると発言した。

TikTokについては2020年、当時のトランプ大統領が中国への情報漏洩への懸念を示し、アメリカ製以外のソーシャルアプリの全面禁止をちらつかせていた。これ以来TikTok側は安全性を強調してきたが、これを裏切る行為が行われていたことになる。

CNNは8月2日、事態を重く見た複数の上院議員が行動を起こしはじめたと報じている。共和党の議員グループは、TikTokのCEOに対し質問状を送付している。さらに同グループはバズフィードによる報道について、「議員たちが長年疑ってきたとおり、TikTokとその親会社のByteDanceが、アメリカの顧客データの宝庫にアクセスできることを利用し、アメリカ人たちを監視してきたことを裏付ける」ものだとコメントした。

チップセットには中国の五星紅旗がプリントされている
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TikTokは現在、プロジェクト・テキサスと呼ばれる計画を進めている。米国ユーザーのデータを、米オラクル社が提供するテキサス州のデータセンターで管理し、適切なデータアクセスをアピールするものだ。しかし、地理的にアメリカ国内で保管するようになったとしても、中国からのアクセスが可能である限り、なんら安全性の向上にはなっていないとの指摘がある。

「おすすめ動画」で広がる中国の思想

TikTokにまつわる懸念は、データの国外「流出」だけではない。逆方向にあたる「流入」の動きとして、中国政府寄りの思想がアプリを通じ、アメリカ人ユーザーのあいだに浸透するおそれが指摘されている。

テッド・クルーズ米上院議員は2020年のツイートにて、「#TikTokはトロイの木馬だ。中国共産党はこれを通じ、アメリカ人が何をみるか、何を聞くか、そして究極的にはどう考えるかに影響を及ぼすことができる」と懸念を表明している。

TikTokは推奨アルゴリズムに基づき、ユーザーが見たいであろう動画を次々と提案する。このアルゴリズムが中国共産党指導部の指示によって改変されれば、特定の思想をもった動画をアメリカで流行させることも不可能ではない。

コンテンツの不正な推奨に関する懸念は、現実のものとなったようだ。バズフィードは7月27日の記事にて、ByteDance社の元従業員の証言を報じている。これによると、同社がかつて提供していた英語版ニュースアプリ「TopBuzz」にて、アメリカのユーザー向けに親中派のメッセージを配信し、トップ付近の目立つ位置に固定していた模様だ。